BEWITCHED, BOTHERED AND BEWILDERED

ハート＆ロジャーズの Bewitched は舞台ミュージカル Pal Joye の歌で彼らの代表作だが、一般に歌われているシート・ミュージック版が恋の喜びに悶えるロマンティックな歌詞なのに対し、オリジナル歌詞の舞台版はかなり際どい表現を含んでいる。今回はこの二つの歌詞をそれぞれ訳してみた。

＝＝＝　ポピュラー版（シート・ミュージック版）　＝＝＝

[ヴァース１]
He's a fool and don't I know it—
But a fool can have his charms;
I'm in love and don't I show it
Like a babe in arms.
Love's the same old situation,
Lately I've not slept a wink.
But this half-pint imitation
Put me on the blink.

彼は馬鹿なのを
　それを私が知らないとでもいうの・・・
でも馬鹿なりの魅力は持っているもの；
私は恋しているのに示すこともできないでいる、
　腕に抱かれた赤ん坊のように。
恋は昔なじみの興奮で、
この頃私は一睡もできないでいる。
だってこの取るに足らない男が
私をおかしくさせてしまったから。


[リフレイン]
I'm wild again,
Beguiled again
A simpering,
 whimpering child again.
Bewitched,
 bothered and bewildered - am I

Couldn't sleep,
 and wouldn't sleep
Love came and told me,
 shouldn't sleep
Bewitched,
 bothered and bewildered - am I

I lost my heart,
 but what of it?
He is cold I agree.
He can laugh, but I love it
Although the laugh's on me.

I'll sing to him,
 each spring to him,
And long, for the day when I'll cling to him.
Bewitched,
 bothered and bewildered - am I

また私は取り乱してしてしまい、
また騙されてしまったわ。
間抜け笑いをしたり、
　べそをかく子供に戻ったわ。
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

眠ることもできず、
　それに眠る気にもなれない。
愛が訪れたときに、
　私に眠るなと言ってからは。
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

心を奪われてしまって、
　でもそれがどうだっていうの？
彼は冷たいのは私は承知していること。
彼は笑うことが出来、私はそれが好き。
例え彼の笑いが私に向けられたものでも。

彼のために歌うわ、
　春になるたびに。
そして彼に抱き付く日を待ち続けるの。
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

＝＝＝＝＝　舞台版　＝＝＝＝＝



[ヴァース]
After one whole quart of brandy,
Like a daisy I awake.
With no Bromo Seltzer handy,
I don't even shake.

Men are not a new sensation;
I've done pretty well, I think.
But this half-pint imitation
Put me on the blink.

ブランディを一瓶すっかり空けた後でも、
ヒナギクのように私はすっきり起きていられる。
ブロモセルツァー（鎮痛剤）が手元になくても、
私は震えることさえない。
男たちに新鮮な興奮を覚えることなんてなく、
私はうまくやって来た、そう思うわ、
でも取るに足らぬ男なのに
私はおかしくなってしまう。

[リフレイン１]
I'm wild again,
Beguiled again,
A simpering,
 whimpering child again.
Bewitched,
 bothered and bewildered am I.

Couldn't sleep,
And wouldn't sleep,
Until I could sleep where I shouldn't sleep
Bewitched,
 bothered and bewildered am I

Lost my heart,
  but what of it?
My mistake I agree.
He's a laugh, but I like it
because the laugh's on me.

A pill he is,
But still he is
All mine and I'll keep him until he is
Bewitched, bothered and bewildered
Like me.

また私は取り乱してしてしまい、
また騙されてしまったわ。
間抜け笑いをしたり、
　べそをかく子供に戻ったわ。
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

眠ることもできず、それに眠る気にもなれない、
　眠ってはいけない場所で眠れるようになるまで。★
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

心を奪われてしまって、
　でもそれがどうだっていうの？
間違いだって、自分でも知っているの。。
彼は笑っている、私はそれが好き。
だってその笑いが私に向けられているから。

彼はアヘンの一粒、
　でも彼は消えないでいる
私のすべてをかけて彼を引き留めるわ、
　彼が、魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえるまで、
今の私みたいに。

[リフレイン２]
Seen a lot—
I mean I lot—
But now I'm like sweet seventeen a lot—
Bewitched, bothered and bewildered am I.

I'll sing to him,
Each spring to him,
And worship the trousers that cling to him—
Bewitched, bothered and bewildered am I.

When he talks he is seeking
Words to get off his chest.
Horizontally speaking,
He's at his very best.

Vexed again,
Perplexed again,
Thank God I can't be over-sexed again—
Bewitched, bothered and bewildered am I.

いっぱい見て来たわ・・・
つまりいろんなことを・・・
でも今は素敵な17歳でいっぱい・・・
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

彼のために歌うわ、
　春になるたびに。
そして彼にまとわりつくズボンを賛美するわ。
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

彼が話をするとき、彼は言葉を選んで
打ち明け話をしようとする。
横になっての話は　★
彼の本領とするところ。

またいらいらさせられ、
またまごつかさせられ、
神様感謝します、また性欲が増してきたから。
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

[リフレイン３]
Sweet again,
Petite again,
And on my proverbial seat again—
Bewitched, bothered and bewildered am I.

What am I?
Half shot am I?
To think that he loves me
So hot am I—
Bewitched, bothered and bewildered am I.

Though at first we said, "No, sir,"
Now we're two little dears.
You might say we are closer
Than Roebuck is to Sears.

I dumb again,
And numb again,
A rich, ready, ripe little plum again—
Bewitched, bothered and bewildered am I.

また娘盛りに、
また可愛い娘に戻り、
またよく言うように椅子から身を乗り出してしまった・・・
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

何なの私は？
酔っぱらっているのかしら。
彼が私を愛していると考えると
とっても熱くなる私・・・
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

私たちが最初に会った時の言葉が『いいえ、結構』だったのに、
今の私たちは大切な人どうし、
私たちはとっても近しいというでしょうね、
ローバックとシアーズよりももっと近いと。

また無口になって
また愚かものに、、
芳醇で、食べごろの、熟した小さなプラムに戻ったの・・・
魔法をかけられ、
　悩んで、うろたえた私。

[リプリーズ]
Wise at last,
My eyes at last
Are cutting you down to your size at last—
Bewitched, bothered and bewildered no more.

Burned a lot,
But learned a lot,
And now you are broke,
  though you earned a lot—
Bewitched, bothered and bewildered no more.

Couldn't eat—
Was dyspeptic,
Life was so hard to bear;
Now my heart's antiseptic,
Since you moved out of there.

Romance—finis;
Your chance—finis;
Those ants that invaded my pants—finis—
Bewitched, bothered and bewildered no more.

最後には賢くなったの、
最後には私の目は
あなたのちっぽけさを見ることが出来たの。
魔法をかけられ、悩んで、うろたえるなんてもうないわ。

いっぱいやけどし、
でもいっぱい学んだわ、
だから今のあなたは無一文、
　あなたにはいっぱい貢いできたのに・・・
魔法をかけられ、悩んで、うろたえるなんてもうないわ。

食欲がなかったのは、
消化不良のせい。
人生を耐えていくのは難しいこと。
今の私の心は無菌処理され冷静に、
あなたが心から離れてからというもの。

ロマンスは・・・フィニス（完）
あなたのチャンスも・・・フィニス
私のパンツに忍び込んだ蟻たちも・・・フィニス・・・
魔法をかけられ、悩んで、うろたえるなんてもうないわ。

※　恋の当惑、恋する喜びと恋人のつれない仕打ちを歌った歌で、 Variety誌選出の Golden Tin Pan Alley Songs of 1940s に選ばれたスタンダード。
元は、ジーン・ケリー唯一のブロードウェイ主演ミュージカル Pal Joey (1940) の中の歌で、ハートのシニカルで際どい表現が含まれた歌詞だった。発表後、ラジオ放送に耐えられるよう、いくつかの歌詞を添削したもののラジオで流れることはなかった。というのは当時 ASCAP (米国作曲家作詞家出版者協会) が保有曲をラジオで放送することを禁じたからで、先ず人気を博したのは 1940 年代にフランスで評判になってから。1950年代になると、ピアニストのビル・スナイダー楽団がヒット・パレードの３位に３週、１位に５週つけ人気曲となった。他に、ゴードン・ジェンキンズ楽団（歌はボニー・ルー・ウィリアムズ）、ジャン・オーガスト、ハーモニカズ、メル・トーメ、ドリス・デイなどがヒットチャートをにぎわした。
1957年にはフランク・シナトラ主演で映画化され（邦題：夜の豹）、リタ・ヘイワース（アン・グリアの歌吹き替え）がこの歌を歌った。


しかし、舞台版の歌詞はかなりきわどい歌で、ドリス・デイのロマンティックな歌とはかけ離れた印象を受ける。

冷淡な男と知っていながら娘時代の興奮がよみがえった中年女性の喜びを歌う、この"シチュエーション・ナンバー" の背景を簡単に説明すると、
『シカゴ社交界の大立者で金持ちの有閑夫人ヴェラ・シンプソン（ヴィヴィアン・シーガル¶）は訪れたナイトクラブで、雇われたばかりの二流芸人ジョーイ（ジーン・ケリー）に無礼な態度を取られる。彼は女たらしで無教養で虚言壁のある悪党で、彼の無礼な態度の裏に計算が働いていることを知ってはいるもののヴェラは年下の男との情事を始めずにはいられなくなる。数日後ヴェラに囲われるようになったジョーイが洋服を仕立てている。ヴェラが現れたので、洋服屋はにわかに態度を改める。男たちは別室に行き、ひとりになったヴェラは「魅せられて」を歌う』（参考：ミュージカルが《最高》であった頃他）


★　リフレイン１では、"Until I could sleep where I shouldn't sleep"、リフレイン２では "Horizontally speaking" といった際どいというより、生々しいセックスへの言及が見られ、舞台版歌詞は一般向けとは思えないが、アニタ・オディ（ロジャーズ＆ハート集）、ダリル・シャーマン、ダイアン・シューア、エラ・フィッツジェラルドなどは舞台版のヴァースやリフレイン２などをまじえて歌っている。
リプリーズは、劇の終盤に歌われたもので彼女の心変わりを表している。ハーツ＆ロジャーズ集を歌ったミス・エラ、ロジャーズ作品集を歌ったミス・シャーマンは作品集というコンセプトゆえか、律儀に歌っている。（ダリル・シャーマンはリプリーズ３も歌唱）

¶　原作・台本のジョン・オハーラは最初マレーネ・デートリッヒを考えていたが、ロジャーズ＆ハートの後押しによりヴィヴィアン・シーガル Vivienne Segal が選ばれた。ヴィヴィアン・シーガルは 1892 生まれの女優・歌手で、この劇のときは 48歳だった。ハートの実質的最後の作品 To Keep My Love Alive もミス・シーガルが歌い、この２曲が彼女のシグネチュア・ソングとなった。台本のオハーラは、ミセス"シカゴ社交界" の役名を意図的に同じイニシャルのヴェラ・シンプソンにしたという。（なお意図的なのか偶然なのか不明だが、出演者の一人にジューン・ハヴォック June Havoc （ジョーイを脅迫するダンサーのグラディス役）がいるが、彼女はジプシー・ローズ・リーの妹。そしてこの劇で挿入された息抜きナンバーに、ジプシー・ローズ・リーのことを歌った『ジップ』Zip という歌がある）

作詞： ロレンズ・ハート Lorenz Hart
作曲： リチャード・ロジャーズ Richard Rodgers
ブロードウェイ・ミュージカル Pal Joey (1940) より

CD, LP
● アニタ・オディ Anita O'Day and Billy May Swing Rodgers and Hart (Verve)
● ダリル・シャーマン Daryl Sherman : A Hundred Million Miracles
● ドリス・デイ Doris Day : Day Dream
● エラ・フィッツジェラルド Ella Fitzgerald sings Lorenz Hart and Richard Rodgers (verve)
● その他 キャロル・スローン、フランク・シナトラ、メル・トーメなど

YouTube
■　 ドリス・デイ
■　 サラ・ヴォーン
■　 フランク・シナトラ
■　 映画「夜の豹」でのリタ・ヘイワース 歌詞は多少異なっている

2014/04/20 訳

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