IT NEVER WAS YOU

[ヴァース１]
僕は森の中を狩りしたもの、
川や湖で魚を釣ったもの
ある女の子を求めて、
ある父親の娘を求めて、

僕は行方を追い、
去る船を後ろから眺めたもの、
ある二つ瞳を求めて
そしてある唇を求めて。

そう、僕はさまざまな所を訪れた、
羽根がなくても見ることのできる所、
そして僕は色々な種類の
興味あるものを見つけた。


[リフレイン]
でも決して君ではなかった、
どこにも君はいなかった。

たまたま見る日暮れの風景が思い起こさせる、
あるいは高く伸びたチューリップが、
あるいは西に低く構える一つの赤い星が、
あるいはマキバドリの巣から聞こえる悲恋の鳴き声が、

ふと考えさせられるのは：
『もしかして本当にあったことかも、
　彼女を星の中に見たことが、
　鳥の鳴き声の中に、
　青い景色の中に。』

でも決して君ではなかった、
どこにも君はいなかった。
どこにも、どこにも君は、どこにも君は。

[ヴァース２]
私は雨の中を走ってきたもの
それに追いかける風を背に、
ある顔を求め
それは忘れ得ぬ笑い顔。

私は兆しを追い、
この土地を探しまわってきたもの
抱きしめてくれる両腕を求め、
握りしめてくれる両手を求め。

そう、私はこの地でも口づけを求め
それに彼の地でも口づけを求めたもの。
あなたが私の元から姿を消していた間でも
若者と娘は互いを求めるでしょうから。

（リフレインへ）


※　Lost In the Stars にも通ずる抑えつけたようなドラマ性を持つ歌。

ヴァースとリフレインに分かれているが、ヴァースを省略する歌手はいないようで YouTube （ジュディ・ガーランド、ジュリー・アンドルーズ、キリ・テ・カナワ等）を含め確認した限りではどの歌手もヴァースから歌っている。
リフレインの一行目は But it never was you であり、この歌はヴァースがないと内容が通じにくいだけでなく、 あたかもサビを歌うようにこの行が曲のなかで一番盛り上がるように作られているからだろう。
ただし歌手によりヴァース１を歌う歌手、ヴァース２を歌う歌手、１と２を混合したヴァースを歌う歌手などさまざまであった。

発表当時の政治批判を込めた舞台ミュージカル「ニッカーボッカー・ホリディ」では、ニューヨークがニュー・アムステルダムと呼ばれていた1647年を背景に、 政府の統治と無法を批判したため逃避していたブロム・ブレックが、彼を絞首刑にしようとするヴァン・ティーンホーヴェン議員の娘ティナ （二人は愛し合っている）の所に戻った時にデュエットで歌われた。そのため、ヴァース１は男性口調で、ヴァース２は女性口調で訳した。

この後ブロムは捕まり吊し刑になるが、ウォルター・ヒューストン演ずる短気で独裁的な総督ピーター・スタイヴィサントが登場し彼に助けられる。 ブロムとティナは結婚の許可を得ようと総督に頼むが失敗する。総督はティナの父親と約束したので、自分と結婚するようティナを説得する。 『人生も９月になると日も短くなってきた、この貴重な時間を君と過ごしたい』と歌うのはこの舞台一番の当り曲となった「セプテンバー・ソング」で、 本来ならばセクハラ中年の憎むべき悪党となるはずが、この歌とウォルター・ヒューストンのパーソナリティのおかげで観客の共感を得てしまい、 政治批判をこめた舞台メッセージがぼやけることになったという。


The Guide to Musical Theatre を参考に Knickerbocker Holiday のプロットを載せる。（意味不明な所は原文を参照されたい）

第一幕：
ワシントン・アーヴィング、偉大なるアメリカの歴史家、机の前でまどろんでいたのは1809年、書き始めたのはオランダが礎を築いた頃のニュー・ヨーク、1647年当時はニュー・アムステルダムと呼ばれていた。突然地方議会員が観客の前に：ヴァン・ティーンホーヴェン(Van Tienhoven), Van Rensselaer, Roosevelt, De Vries, Vanderbilt、全員太っていて、尊大で、腐敗しており（Hush-Hush)、多少浮世離れしている。彼らの問題は、総督が船でやってくることになっているが、彼に好印象を与えるため公開処刑を行うことだが、囚人は全員拘置所を脱走してしまった。議会が選んだのは若くハンサムなブロム・ブレック、長い間隠れていたが彼の恋人に会うために戻ってきた、その男を選ぶ。彼の恋人はヴァン・ティーンホーヴェン議員の娘ティナであった (It Never Was You) 。彼が隠れる必要があったのは、問題をいつも起こす人間を処分することへの反感からであった。ワシントンの生き写しがナレーター役として、ブロムが最初の完全なる「アメリカ市民」だと彼への共感を示す。 (How Can You Tell an American? ) ブロムがヴァン・ティーンホーヴェン議員に指摘したのは彼の不法な行いだが、これは「議会への非難を行った」と捉えられ、それは絞首刑に相当するものだとされる。群衆は怒り、議会に圧力をかけるが、ブロムは議員たちに、近代的な吊り刑の方法は腹を吊ることだと説得する。新総督のピーター・スタイヴィサント (ウオルター・ヒューストンが演じた）が現れた時に見たのは、ブロムが腰に紐をまかれ吊るされている姿で、彼はブロムが生きていることを喜びブロムに詫びる。彼は人民全てに牧歌的な生活を送るという彼の理想を語るが、彼は絶対的な独裁者であり、彼の腹心に指名したヴァン・ティーンホーヴェンは違法に武装しており、インディアンに酒を売りもしている人間である。 (The One Indespensable Man) ブロムとティナはスタイヴィサント総督を探し二人の結婚の許可を求めるが失敗に終わる。ヴァン・ティーンホーヴェン議員は、恐怖の中の恐怖であり銀の脚を持つ総督に彼女を与えると約束したからであった。総督は彼女にすぐ結婚するように説得する。『人生の９月ともなると日はだんだん短くなる』 (September Song) 落胆したブロムは、独裁的な総督に大声で文句を言い、後で絞首刑になるよう堂々と刑務所に向かうが、その時総督は全員に賛辞するよう訴える。(All Hail the Political Honeymoon)


第二幕：
総督がブロムの所を訪れ、彼の思想を聞き刑務所で待っている間に本を書くように勧める。ティナは突然ブロムと同じように反抗的になる。そして彼とまだ結婚する気でいる彼女は避難口を上る、看守が止めようとしたときには彼女は７枚のスカートを失うことになる。彼女とブロムが逃亡しようしたその時に彼女の父親が彼女を連れ去ろうと現れる。

ワシントンの生き写しが最後のシーンを紹介する。休止、どん底にいるときは、どこにも行く場所がないだろうが上には、砲台、軍隊（議員と数人の少年）が反乱の行進するのは短気な総督の前 (To War!) 議員たちは短期に鋭利な経済学を学ぶ、総督のやり方では自分たちを衰弱させるだけだと。 (Our Ancient Liberties) 結婚式が始まるが、ブロムと友人のテンピンが現れ妨害する。彼らは酔っぱらったインディアンが刑務所を焼いたため逃げてきた。議会は戦うことを恐れたが、総督とブロムがインディアンを負かす。しかしテンピンは死んだらしい。喜びもつかの間、ブロムと回復したテンピンは総督を非難する。火器と酒をインディアンに売ったことに対し、そして総督を賄賂と適正でない取引により糾弾する。十分とみた総督はブロムに縄をかけ、議会に縄をひくように指示する。ルーズベルト議員が先頭に立ち、勇気が呼び起こされ拒絶する、総督が議員たちに大砲を向けていたにも関わらず。その日はワシントンの生き写しにより救われることになる、総督を説得したのは、世紀をまたがり良き歴史的評価をえることの重要性についてであり、老総督が命令も処分もしないことを認めることで、幸せにつつまれた大団円となる。


作詞： マクスウェル・アンダーソン Maxwell Anderson
作曲： クルト・ワイル Kurt Weill
舞台ミュージカル Knickerbocker Holiday(1938) より


歌：

YouTube
■　ジュディ・ガーランド
■　アン・ケリー・フォード（キャバレー歌手）


2010/05/08 訳
2013/02/20 レイアウト変更等

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