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Ｇ＆Ｓ訳一覧 |
ギルバート＆サリヴァンのコミックオペラ「ロンドン塔の近衛兵」(1888) 台本の訳（G&S 訳 9本目）
The Yeoman of the Guard
or
The Merryman and His Maid - Act I
ロンドン塔の近衛兵
あるいは
道化師と乙女 （第一幕）
台本： Ｗ．Ｓ．ギルバート W.S. Gilbert
作曲： アーサー・サリヴァン Arthur Sallivan
初演： ロンドン、サヴォイ劇場、1888/10/03
概要
1888年10月3日にサヴォイ劇場で初演され、423回上演された『ヨーメン』は、他のギルバート＆サリヴァンのオペラとは異なり、コミック要素を減らしより劇的なオペラとなっている。ここには二組の望まぬ結婚と一人の運命のいたずらによる失恋という悲劇的要素が含まれている。
これはギルバートが書く馬鹿馬鹿しい台本を嫌い、彼とのパートナーシップを解消し、芸術的な本格的オペラを書きたいと希望したサリヴァンの意向にそって書かれたからだという。
とは言え、序曲や各幕のフィナーレを除くと、疑似シェイクスピア英語を使ったダイアローグと歌が約３分で交互して現れ、歌もパター、アリア、バラッド、フォーク調等ヴァラエティにとんでおり、他のG&Sコミック・オペラのフォーマットと変わりはないようだ。またギルバートは台本に喜劇要素を随所に見せているが、これは観客が飽きないよう工夫したものかもしれない。
この楽譜はサリヴァンの最高傑作だと考える人も多く実際、喜びと絶望、愛と犠牲といった感情のバランスが刻々と変化する『ヨーメン』を特に楽しむ人もいるという。しかし人気曲が豊富にあり、高校・大学の演劇祭でも度々上演され、突っ込みどころ満載のプロットの他愛ない物語 『ミカド』『ペンザンス』『ピナフォア』などに比べると知名度は落ちるようだ。
なお、ここに訳した目的は、劇のおおよそのプロットと歌の概要を知るためであるが、意味不明なダイアローグ、歌詞が多く適当にごまかして訳した上で、公開した旨を釈明しておく。
第一幕 あらすじ
科学者であり、かつては勇敢な軍人であったフェアファクス大佐は、ロンドン塔に幽閉されている。魔術師として死刑宣告を受けているのだ。フェアファクスはまだ若くハンサムで、近衛兵軍曹の娘フィービーは彼に心を奪われており、絶望的な愛にため息をついている。看守長兼拷問係助手のウィルフレッドは、惚れているフィービーに相手にされなくなり、大いに気落ちする。塔の家政婦であるカラザーズ婦人は、フェアファクスが昨晩の火事の犯人であると信じており、フィービーがフェアファクスを褒め称え、塔を批判することに腹を立てる。
メリル軍曹は、フェアファクスの処刑が間近に迫っていることを思い心配でならない。彼はフェアファクスに命を二度も救われ彼をなんとか助けたいと思っており息子のレナード・メリルが宮廷からの赦免状を持ってくるかもしれないという一縷の望みを託している。
レナードが到着するも赦免状を持参しておらずフィービーは泣き崩れる。しかしレナードは父の恩人のために命を投げ出す覚悟でいる。レナードが帰ったことを見た者は誰もいないのを幸いとメリル軍曹は息子をしばらく隠れるように命令し、フェアファクスをなんとか牢獄から出し髭を剃らせフェアファクスを近衛連帯に入隊予定の息子と紹介することをもくろむ。
フェアファクスは友人である塔の副官に頼みごとをする。いとこの計略で投獄されたが彼が未婚のまま死ぬと彼の遺産はいとこのものとなるが、それを阻止すべく塔副官がフェアファクスと結婚してくれる女性を見つけて欲しいとの頼み事だった。
フェアファクスが独房に入ると笑い声と叫び声が響き渡る。旅回りの劇団の道化師ジャック・ポイントと少女歌手エルシーを追って騒がしい男女の群れが現れる。道化師と歌手は少しばかり怯えていた。群衆は余興を要求し、期待に応えなければ川に投げ込むと脅したからだ。塔副官が現れ暴徒化した群衆を解散させる。エルシーとジャック・ポイントの話を聞いた塔副官は、余命わずかなフェアファクスの花嫁になることをエルシーに勧める。100クラウンの褒賞は彼女の病気の母を助けることが出来、一時間で未亡人になるとの話を聞き提案に同意する。彼女は目隠しをされ、フェアファクスとその告解司が待つ独房へと導かれ結婚する。彼女が留守の間、ポイントは自分の道化師としての能力を説明し、塔副官に宮廷道化師として雇われる。
フィービーは自分に惚れているウィルフレッドが一人でいるのを見つける。彼女は巧みにウィルフレッドを誘惑しこっそり独房の鍵を彼から奪い取り父のメリル軍曹に渡す。軍曹は独房の鍵を開けフェアファクスに近衛兵の制服を着せて脱獄させ、フィービーに鍵を返す。
近衛兵姿となったフェアファクスをメリル軍曹は自分の息子だと衛兵たちに紹介する。兵たちは彼を戦火の英雄ともてはやす。フィービーもまたこの「兄」を当然のように、恍惚とした表情で迎える。そして「兄と妹」が挨拶を交わしている間に、大聖堂の鐘が鳴り始め、フェアファクスの処刑を見届けようと群衆が押し寄せる。斬首台が設置され斬首ショーが始まろうという時、近衛兵が囚人を護送しようと独房に入るもフェアファクスは消えていた。囚人が逃げたとの一報がはいると、ウィルフレッドは逮捕され、エルシーに惚れている道化師は失望し、未亡人になるはずだったエルシーはショックのあまり卒倒し幕となる。
登場人物
リチャード・チャムリー卿（ロンドン塔副長官 Lieutenant of the Tower） ★１フェアファクス大佐（死刑を宣告されている）
メリル軍曹（国王衛士（この訳では「近衛兵」としている））
レナード・メリル（彼の息子）
ジャック・ポイント（旅回りの道化師）
ウィルフレッド・シャドボルト（看守長兼拷問係助手）
首切役人
近衛兵１
近衛兵２
市民１
市民２
エルシー・メイナード（旅回りの歌手）
フィービー・メリル（メリル軍曹の娘）
カラザーズ婦人（ロンドン塔家政婦）
ケイト（彼女の姪）
コーラス： ロンドン塔近衛兵、紳士、市民 他
場面： タワー・グリーン（塔緑地） ★２
時代： 16世紀
★１： ヘンリー８世の時代に同名の人物が存在した。Chalmondeley はチャムリーと発音。劇中では彼を「レフテナント（中尉）」という軍称号で呼んでいるが、ある辞書には ”Lieutenant” という言葉は「ロンドン塔副長官」との記述があったので、この訳では「副長官」としている。
★２： ロンドン塔内の広場。ほとんどの公開処刑は、塔の壁のすぐ外側にあるタワー・ヒルで行われた。しかし、特に重要な囚人は、タワー・グリーンの比較的プライバシーが保たれた場所で処刑された。アン・ブーリンとキャサリン・ハワードはその特権を与えられた。なぜフェアファクス大佐がそのような名誉を受けなければならないのか？ 演出を簡単にするためだろう。
歌曲リスト
1. When maiden loves, she sits and sighs
2. When jealous torments rack my soul
3. Tower warders under orders
4. When our gallant Norman foes
5. A laughing boy but yesterday
6. Alas! I waver to and fro
7. Is life a boon?
8. Here’s a man of jollity
9. I have a song to sing, O
10. How say you, maiden, will you wed
11. I’ve jibe and joke and quip and crank
12. ’Tis done! I am a bride
13. Were I thy bride
14. FINALE –
a. Oh, Sergeant Meryll, is it true
b. To thy fraternal care, thy sister I commend
c. The pris'ner comes to meet his doom
d. As escort for the prisoner
e. All frenzied, frenzied with despair they rave
第一幕
場面： タワー・グリーン（塔緑地）、フィービーが糸車を繰っている
歌曲 － フィービー When maiden loves, she sits and sighs
乙女が恋をしたら、彼女は座り込みため息する、
彼女はそこかしこ歩き回る；
思わぬ涙が彼女の目からあふれる
そしてあらゆる質問に彼女は答える、
悲し気な 『ヘイホー！』と
ただ短い言葉で － 『ヘイホー！』
とても優しく、かすかに聞こえる声で － 『ヘイホー！』
そして甲斐なきため息 －
それでも生と死が
寄る辺となろう乙女の『ヘイホー！』
乙女が恋をしているならば、彼女はうなだれうろつく、
まるで樹上のフクロウがうなだれるように；
たとえ彼女が強く利口だと感じているとしても、
彼女は自分の心を激しく苦しめているものが説明できない、
ただ悲し気に言う『ああ、なんと！！』
馬鹿みたいなため息だけ － 『ああ、なんと！！』
ただうなだれて死ぬ運命 － 『ああ、なんと！！』
ただ何よりも強い
雄弁な言葉
乙女の胸の奥にあるは 『ああ、なんと！！』
（ウィルフレッド登場）
（ダイアローグ）
ウィルフレッド： メリルお嬢さん！ ★１
フィービー： （見上げながら） あら！ やだ！ あんたなの？ なんなら消えていいわよ。 だってあんたのことが嫌いだからよ。
ウィルフレッド： ほかに言うことはないんですか？
フィービー： ああそうだった！ 鳥は鳥かごに入れたかしら？ 野生動物 ★２ のために藁を敷いてあるかしら？ 錠前、鎖、かんぬき、鉄格子なんかは整備できている？ ささいな安息所（独房）は十分に不快な状態かしら？ 拷問道具、やっとこ、親指締め具はすぐに使える状態かしら？ ヤダ！
ウィルフレッド： 俺の義務へのこれらのほのめかしはどれも不信に満ちた感じだ。 俺は囚人を監視することが好きだから看守長になったんじゃない。 俺は拷問の手助けが好きだから拷問係助手になったんじゃない。 俺たちは誰もが魔法使いにはなれないものさ。 （フィービーは嫌悪感を覚える） そうさ！ 自業自得ってものさ。
フィービー： フェアファクス大佐は魔法使いじゃないわ。 彼は科学の人であり錬金術師よ。
ウィルフレッド： まあ、奴が何者であろうと、彼はもう長く生きられない、なぜなら奴は悪魔と取引した罪で今日この日に打ち首になるはずだから。 奴の主人の悪魔は昨晩奴を捉えかけたのさ、ビーチャム・タワーで火事が起きたときのこと。 ★３
フィービー： ああ！ 彼が混乱の隙に逃げられたらと望んだもの！ でも気をつけて； 赦免依願状の返答がくる時間はまだあるはず。
ウィルフレッド： おお！ 俺はその機会があることに満足しているんだ。 今晩の7時半 ― おお！
フィービー： あんたは若くてハンサムな兵士の死を無慈悲にも語るなんて血のない怪物なこと。
ウィルフレッド： 若くてハンサムだと！ どうして奴が若くてハンサムだと知っているんだ？
フィービー： 彼がビーチャム・タワーで鍛錬しているところをここ数週間毎日みて来たからよ。
ウィルフレッド： くたばるがいい！
フィービー： そこよ、私が思うにあんたは彼に嫉妬しているのよ。 私が会話を交わしたこともない人間への嫉妬！ あと一時間たらずで死ぬ魂への嫉妬！
ウィルフレッド： そうとも！ 俺は毎日毎晩嫉妬しているのさ。 俺はあんたに話すどの言葉にも嫉妬しているんだ ― 何故ってその言葉はあんたの耳にとどくから － それなのに俺はあんたに近づけもしない！
フィービー： なんて不当な人なの！ あんたが私に話す言葉に嫉妬！ なんと、私があんたの言葉を嫌いなことをあんたも知っているというのに。
ウィルフレッド： あんたは俺の言葉を好きだったものなのに。
フィービー： 好きなふりをしていただけ。 比較的見知らぬ人間へのただの礼儀だったのよ （フィービー糸車を持って退出）
ウィルフレッド： あんたに嫉妬の何がわかるというんだ！ どれだけ男の心臓を食い破るかあんたに分かるもんか ― そう消化不良 ― それから男の内側を煮えたぎる鉛に変えてしまうことを。 ああ、お前は人間の微妙な内側にある臓器をもてあそぶ心ないあばずれ娘だ。
★１： YouTube などで見るとウィルフレッドの言葉はなまっている。
★２： フィービーが聞いているのは囚人のベッドに藁は敷き詰められているかということ。ただし塔の機能としてかつては野生動物が買われていたこともあるという。
★３：Beauchamp Tower ： 発音はビーチャム。ロンドン塔の主塔のひとつ。1300年頃に建設され、1397年にウォリック伯爵トマス・ビーチャムが幽閉されるまでその名はなかった。ここは高位の囚人の監禁場所として使われた。
歌曲 － ウィルフレッド When jealous torments rack my soul
嫉妬の苦しみで我が魂が拷問を受けたら、
我が苦悶を自分では自制できなくなる。
ああ、いっそ赤く熱した石炭の上に座る方がましなことか
心無いあばずれ娘に恋するよりも。
赤く熱した石炭ならば疑いもなく傷つこう、
しかし赤く熱した石炭はいずれ燃え尽きてしまう。
しかし嫉妬は自分では消せないもの、
その炎は決して消えぬもの。
概して痛みは少ないもの （¶）
赤く熱した石炭の上に座ることは
お前の皮が完全に剥がれるまでは、
あるいは優しい友に頼んだとしても、
お前の哀れな骨を拷問台で割り砕いてと
心無いあばずれ娘に恋するよりも。
お前の雪の頸にあるネッカチーフ
我が断固たる敵とみなそう、
そいつは俺が大胆にも行けないところに行き
一日中とどまっている。
お前を捕らえているベルトは
我が安らぎを削るやすり、
そいつは俺には叶わぬ腰を抱き締める、
俺が間違っていたら正してほしい。
概して痛みは少ないもの （¶ 繰り返し）
お前の唇で朝食をとる鳥よ、
この手で握りつぶしたくなる、
俺が大胆にもすすることが出来ない一口をすする、
俺にはそれが耐えられない。
お前が優しくいたずらに可愛がる猫よ、
彼は俺が大胆にも出来ない横たわりができる。
俺たちは仲良しにはなれない、猫と俺とは。
おれはあの猫が好きでない。
概して痛みは少ないもの （¶ 繰り返し）
注： この歌は初演ではカットされたというが、最近のパフォーマンスでは歌われているという。
（ウィルフレッド退場。市民たち興奮気味に登場、近衛兵がそれに続く）
市民のコーラス（近衛兵の行進とともに） Tower warders, Under orders
塔の門番たち、
命令どおりに、
堂々とした槍兵たち、勇敢なる剣闘士たち！
勇気あるふるまい、
敵はおののく、
過ぎ去りし彼ら豪胆だった日々！
決して無縁だったわけではない
危険とは －
いずれも世界をまたにかける警備員；
語られよう
我らが栄光
いずれも豪胆な、豪胆に寄与す！
近衛兵のコーラス
我らが人生の秋、
安らぐは豊かなクローヴァーの地
我ら歓喜し語ろう
我ら激烈の五月、六月の頃を。
我ら一日の夕間暮れ、
太陽が傾きつつある人生、
我ら不平もなく思い起こす
過ぎ去りし真昼の熱狂を、
独唱： 近衛兵 ２ ★１
これぞ我らが人生の秋、
これぞ我らが一日の夕間暮れ；
不和の争いに疲れ果て、
命を懸けての戦に疲れ果て。
しかし我らが年月は使い果たされておらず、
そう我らが一日はまだ消えず、
しかし我ら気持つは一つに、
そは我が愛する国土が侵略されし時、
今でも外の敵と対峙しようぞ、
過ぎ去りし日々と同様に。
コーラス： 今でも外の敵と対峙しようぞ、
過ぎ去りし日々と同様に。
市民コーラス
塔の門番たち、
命令どおりに （繰り返し）
塔の門番たち、
命令どおりに （繰り返し）
近衛兵コーラス
我らが人生の秋、
安らぐは （繰り返し）
我らが人生の秋、
安らぐは （繰り返し）
（群衆退場、近衛兵舞台に残る、カラザーズ婦人登場）
（ダイアローグ）
婦人： ごきげんよう皆さん！
近衛兵２： ごきげんよう、カラザーズ婦人。 今日はお忙しそうで？
婦人： 全く大変！ ビーチャムでの昨夜の火事で十分働いたから。 何人もの哀れな囚人たち、リチャード・コーファックス、マーティン・バイフリート卿、フェアファクス大佐、説教詩人のウォーレン、他にも十人ほど、全員を小さな部屋に、６フィート四方にも満たない、閉じ込めたから。哀れなフェアファクス大佐、今日にも死刑になるはずの彼は、コールド・ハーバーの14号室に移され、最後の時間を告解司祭とともに過ごすことになっていて、それの面倒を見る必要があるの。 ★１
近衛兵２： かわいそうな男だ！ 彼は勇敢に死ぬだろう。 私は彼の下で２年来いたが、彼の生の価値はまるで羽根のごとくに扱われている。
フィービー： 彼は最も勇敢で、最もハンサムで英国一番の若紳士よ！ 彼は私の父の命を二度も助けたの； 残酷なこと、酷いこと、野蛮なことよ、とても素晴らしい英雄が打ち首になるなんて、だって彼は英国一番のハンサムな顔だから！
婦人： 悪魔と取引したせいで。 そうよ！ もし彼と取引した誰もが打ち首になるなら、タワー・グリーンでは忙しく働かねば。
フィービー： フェアファクス大佐は錬金術の研究者ということをあなたは知っているはず、それ以上でもそれ以下でもない； でもこの酷い塔は、まるでおとぎ話に出てくる残忍な巨人のように、血を吸っているに違いなく、その血は英国中で最良で最も勇敢なに違いないわ、それとも民話の人食い巨人ブランダーボア ★２ と同じようなものよ。オェッ
婦人： 黙りなさい、バカ娘； 自分の言っていることが分からないようね。 私はこの古い塔に生まれ、白髪交じりになるまでここで生きてきた、そして神に感謝している。 私はここで死にここに埋められるでしょう； そうこの城壁の中で、私の右手と同等に愛しくない石などありません。
★１: コールド・ハーバーはロンドン塔の別の塔。原文は Cold Harbour となっているが、正しくは Coldharbour で、ヘンリー7世の時代に王妃の居城として使われ、塔は1670年頃に取り壊されたとのこと。
★２: ブランダーボアは民話の『ジャック・ザ・ジャイアント・キラー』に出てくる残酷で肉食の巨人で、囚人を閉じ込め死を執行してきた塔を残酷な巨人になぞらえている。
歌曲とコーラス： カラザーズ婦人と近衛兵たち When our gallant Norman foes
敵であった我ら勇猛果敢なるノルマンディー公ウィリアム ★１
我らが楽しき土地を彼らのものとし、
そしてサクソン人は征服王によって逃げ去った、
彼の要請により現れたのは、
石を鎧とした防御物、
命なき不死の歩哨。
無感覚は、思うに、
歩哨のあるべき姿、
たとい救われるべき打ち首の王妃が正義を求めたとしても、 ★２
その容貌に伝説あり
我にとっては雄弁家、
伝わるは果たせし義務そして果たそうとする義務。
親指締め具は締めあげ拷問台は曲げられよう、
そして男たちは血を流し男たちは焼かれよう、
ロンドンの街の黄金の秘蔵品
我は黙して警戒を続けよう！
コーラス 親指締め具は締め上げ （繰り返し）
その岩の城壁の内にては
勇敢の花は
揺るがぬ忠誠とともに死を迎えよう。
地下牢から断頭台に至るまで、
絞首台から墓に至るまで、
多くの勇猛果敢な魂が失われし道のり。
そして蝋燭の炎の芯ははぜよう
闘いし英雄たちの周りを
道義心のためそしてそれらの美徳の家のために、
しかしこのいかめしい古き小要塞は
多少の留意を要する
それは義務の基準からではない。
親指締め具は締めあげ拷問台は曲げられよう、
そして男たちは血を流し男たちは焼かれよう、
ロンドンの街の黄金の秘蔵日
我は黙して警戒を続けよう！
コーラス 親指締め具は締め上げ （繰り返し）
★１: ロンドン塔の歴史と意義について称賛する歌。ノルマンディー公ウィリアム（1027-87年頃）は、従兄弟の故エドワード懺悔王がイングランド王位を遺贈したと主張した。その権利を行使するため、彼は軍を率いてイギリス海峡を渡り、イングランドに侵攻した。しかし、サクソン人のハロルド2世がこれに対抗したが 1066年のヘイスティングスの戦いでハロルド2世を破った。その後、ウィリアムは自らの名前に「征服王」を冠し、ロンドン塔の最初の部分であるホワイト・タワーを建設した。
★２： ヘンリー８世の妻だったアン・ブーリン、キャサリン・ハワードを示唆している。
（フィービーを除き全員退場、メリル軍曹登場）
（ダイアローグ）
フィービー： 父上！ 哀れな紳士のための赦免状はまだ届きませんか？
メリル： まだだ、娘よ； しかしまだ一縷の望みはある。 そなたの兄のレナード、その勇気により軍旗をまもり彼をはりつけにしようとした50人の敵を相手に突破した褒美により、近衛兵になることが約束されているが、彼は今日着く予定； ウィンザー宮廷から直接来ることになっておる。
フィービー： ああそうなれば！
メリル： そう祈ろう！ 大佐は二度もわが命を救ってくれた故、私は残りの人生を彼の救出にかけるつもりだ！ だからそなたは、英国中に響き渡る功績の名声を得た、勇気ある兄の帰還を喜んでくれぬか？
フィービー： はい、まことに、もし赦免状を持参したならば。
メリル： そうでなければ？
フィービー： まあ、兄はまさに勇気ある男性ですから、私は勇気ある男性を愛しています。
メリル： 誰にでもそうなのか？
フィービー： ほとんど誰にでも、確かにそう思っています！ でもレナードが私に厳しすぎることがないようにと願います、 ― 噂では彼は美徳と分別には特に手厳しいとの評判！ 今では、愛しい父上は優しさそのもの、そして ―
メリル： まあそなたの好きなようにすればいいさ、だろ？ まあそなたに恐怖は覚えておらん； お前は羽根の重さの脳みそしかないが、しかしそなたは善き娘だ。
フィービー： はい、それで十分です、しかしもしレナードが私に命令したら、これをしては駄目だ、あれをしては駄目だ、この人と話してはいけない、あの人と歩いてはいけない、ただ口を固く閉ざして目を伏せているようにと言われたら、まるで男性を放棄した哀れな修道女のように、 ― まさに私が男性を放棄していないがごとく、そして男性を放棄するつもりがないように見られたら、私には受け入れられません、 ― そう！
メリル： いや、彼はそなたの良き所以外を確認することはなかろう、フィービー！ 彼は勇気ある男、勇気ある男たちの中で最も勇気のある男、それでも昨日のように思えるのは副長官の果樹園から盗みをはたらいた時のこと。
歌曲 － メリル軍曹 A laughing boy but yesterday
笑っていた少年、ほんの昨日のこと、
おどけたわんぱく小僧、陽気で快活な、
彼の歓喜の叫び声は
大きく鳴り響く
心配事や悲しみからは無縁だった。
今日は日に焼けた戦士、
名声を得し兵士としての偉業は
ロンドンの宝石箱と
明日は古強者に！
我がレナードの偉業は卓越、
兵士の鼓動は倍に、
そして威厳ある心はときめき
勇敢な心の意思を語るがごとく
戦火の栄光の物語。
我は誇りと歓喜にほとばしる、
汚れなき誇り、
我が子を見ることは － 我が愛しの子を －
歌と物語の主題となろう！
注： この歌は初演ではカットされたというが、最近のパフォーマンスでは歌われているという。
（レナード・メリル登場）
（ダイアローグ）
レナード： 父上！
メリル： レナード！ 我が勇気ある息子よ！ まさにそなたと会えて嬉しいぞ、フィービーも同様に！
フィービー： ええ全く、フェアファクス大佐への赦免状をもってきた？
レナード： いいや、私がここに来たのはロンドン塔副長官への至急公文書を届けるためだ、だから大佐への赦免状は持ってきていない！
フィービー： かわいそうな人！ かわいそうよ！
レナード： ああ、もっといい知らせを持ってきた。 私は右腕を差し出そう、いいや自分の体を、いいや自分の命を差し出して彼を助けよう！
メリル： そなたの言葉はまことのものか、息子よ？
レナード： しかり、父上 ― 私はほら吹きではありません。 彼はあなたの命を救いましたね？ それに私は彼の乳兄弟ではないですか？
メリル： では傾聴するがよい。そなたはロンドン塔近衛兵団に入隊するために来たのだな！
レナード： それで？
メリル： 我ら以外には会っておらんな？
レナード： ある歩哨がわずかながら私に気づいております。
メリル： 今こそそなたの言葉を証明する時だ。至急公文書を私に渡しすぐにとりかかろう！ ここに金銭を渡しておく、後ほどさらに送るとしよう。しばらく隠れておき誰にも知られないようにしておくのだ。近衛兵の制服を大佐に届けよう、彼はひげをそり、そうすれば彼と分からないであろう、そして彼を我が息子、勇敢なレナード・メリル、軍旗を守り彼の命を渇望した50人の敵の中を突破した、として証言しよう。 彼は疑問もなく兄弟である近衛兵として歓迎されよう。 それは保証できよう。さて、一体どうやって大佐の独房に入ることができるかだ？ （フィービーを向き） 鍵はお前の不機嫌顔の崇拝者、ウィルフレッド・シャドボルトとともにある。
フィービー： （つつましく）考えたけど、つまり、私の考えでは、ウィルフレッドのものは何でも手に入れられるはず、きっと、つまり、私の考えでは、私に任せられるはずよ。
メリル： それならばすぐにとりかかろうぞ、せがれよ、そなたのこの犠牲に神の祝福を。
フィービー： それに私の祝福も受けて、親愛なるレナード兄さん！
レナード： お前の祝福もとは？ 何と何と！ 愛が新たに生まれたとは； 大切に扱うことだ、冷めて消えぬようにな。
トリオ ― フィービー、レナード、メリル Alas! I waver to and fro
フィービー ああ、私は行ったり来たりよろめく！
行いには暗い危険がつきまとう！
全員 行いには暗い危険がつきまとう！
レナード 計画はむこうみずで失敗しうる；
しかし我らに無きは、たじろぐ心、
委縮する手、青白くなる頬
いざという時でも！
全員 しかし我らに無きは、たじろぐ心、
委縮する手、青白くなる頬
いざという時でも！
メリル 我が呼吸する息は恩ある彼へと：
我が命は彼のもの ― 我は無きものとみなそう！
フィービー＆レナード
その命は彼のもの ― ゆえに我ら無きものとみなそう！
しかし自分が行うリスクを秤にかけるとしたら
事が成功した時との
彼の方の命を救うために？
恥ずべき思い！
しかし自分が行うリスクを秤にかけるとしたら
彼の方の命を救うために？
全員 恥ずべき思い！
我らは成し遂げよう ― 誰に分かるものか？
神よ我らに祝福を ― 神の御心のままに！
（フィービーとメリルを抱きしめレナード退場、フィービー泣く）
（ダイアローグ）
メリル： 泣くでない、娘よ、明るくふるまおう、まだ彼を助ける希望はある。
フィービー： ああ、見て、父上 ― 彼らが可哀そうな紳士をビーチャムから連行しているわ！ ああ、父上！ 彼にはまだ時間があるのでは？
メリル： いや、いや ― 彼らはコールド・ハーバー塔へと連れ出しているだけ、彼の最後の時間をひとりで過ごすためなのだ。しかし静かに、副長官が近づいている！ 彼にそなたの涙を見られてはならぬ。
（フェアファクス登場、番人に付き添われている、副長官登場し彼と会う）
副長官： 止まれ！ フェアファクス大佐、懐かしき友よ、我らは会うものの、ただ悲しきこと。
フェアファクス： 副長官殿、あなたと会うことは喜ばしいこと； それに熱い配慮で、あなたは、人間の生命を脅かす疫病のような外の人間からの危険から私を守ってくれることに感謝しています。この小さな共同体の中で、死、彼は時間厳守でかつ事務的に訪れ； そして礼儀正しい紳士のごとく、彼の到来を予告し不意をつくこともないでしょう。
副長官： 大佐殿、君はこれを勇気をもって耐えている、まさに勇者かくあるがごとく。
フェアファクス： まあ、副長官殿、与えられた時間、与えられた方法で素早く確実に死ぬことは、明るい恩寵とは言いかねることではあります。真実を言うならば、私は生きている方がうれしいのですが、しかしそれが許されないのならば、次によい策、それは死を受け入れましょう。信じてください、副長官殿、我が運命はそれほど悪いものではないのです。
フィービー： （傍らから） お父様、耐えられないわ！
メリル： 哀れな娘よ！
フェアファクス： いや、なぜ泣いておる？ さあ、元気をもつのだ。 私のような人生は涙に値しないもの。（メリルを見る）メリル軍曹では？ （副長官を向いて）古き友人と挨拶させてください。（メリルと握手する）どうしたというのだ？ そなたと私とは何度となく死という残忍な老王と対峙して来たが、陛下がこれほど立派な様で私のところに来られたことはないのだ。強い心でいるのだ、友よ ― 我らは友だ、我らは死に方を心得ておる、そなたと我は。我が言葉を受け入れよ、良き死にざまは良き生き様よりも容易である ― 何故なら、真のところ、私は両者ともに試して来たのだから。
バラッド ― フェアファクス Is life a boon?
生とは神の恩寵か？
そうであれば、起こるはず、
あの死という者、彼が呼び出せばいつでも、
すぐに呼び出さなければ。
たとい80年を彼が与えたとしても、
それでも人は生きたいと祈るもの
もうひと月を！
どんな不満が私にあるというのか、
七月に非業の死をとげたとて？
我は死ぬ運命、
あるいは、六月に！
生は棘なのか？
ならばいささかの疑問もなく受け入れよ！
男はそれで全うできるから；
彼が生まれて間もなく
彼はあらゆる手段を試すもの
災厄から逃れようと；
そして我は、戦に疲れ果て、
哀れな囚われし逃亡者、
我が人生を喜んで捧げよう ―
我は生きなければならないかも、
もうひと月を！
（最後にフィービーは泣きながらメリルに連れられて退場）
（ダイアローグ）
フェアファクス： さてリチャード卿、一つ願いがあります。私はもっともな理由で困難な状況にあります、というのは私の同族の者、クラレンス・ポルトホイッスル卿、国務長官の一人が私を妖術の罪で糾弾したのですが、それにより彼は私の遺産を相続する可能性があるのです、私が結婚せずに死に至った場合彼に移譲されるので。
副長官： きっとそういう意向でしょうな。
フェアファクス： いいえ、そうならないとの意向なのです、神の御加護を！ 私はこの良き従弟の思いを阻みたいのです。
副長官： どのようにして？
フェアファクス： 直ちに結婚することで、確実に！
副長官： しかし天の憐みが、そなたが結婚する意向があるのは誰ぞ？
フェアファクス： いいえ、誰かという点は無関心です。 来る死は我を誠実で豪胆な騎士にさせてくれ、あらゆる女性を尊ぶ人間にさせてくれ、老女であろうと、卑しい者であろうと、そして最悪な悪女(しこめ)であろうと十分満足のいくものなのです。であるので、副長官殿、もし貴殿がわずか一時間の命の哀れな戦士に、最初に来た女性を与えてくださらぬか、 我が告解司祭が我々を結婚させてくれよう、そして彼女の結婚持参金は我が不名誉な名の付与として100クラウン ★１ の金銭が与えられよう。小一時間の結婚に対しは貧相な結婚持参金とは思えないが。
副長官： 奇妙な依頼である。その歎願を承諾できるという保証は疑わしいが。
フェアファクス： 契約当事者にとってこれほど弊害のない結婚はないでしょう。 一時間のうちに彼女は未亡人となりそして私は ― いずれにせよ独身にもどるのだから！
副長官： まあ何とかしてみよう、なぜなら私は卑劣な罠で弄した君の同族を嫌悪するからだ。
フェアファクス： 幾重にもお礼申し上げます、副長官殿。この地で一時間ほどしたらまた会いましょう。私は新郎とその時になり、閣下の私を歓びに満たすと願っています。それまでは、ご機嫌よう。（護衛に向かい）準備は出来た、諸君。（護衛と共に退場、コールド・ハーバー塔に入る）
副長官： 彼こそは勇者であり、彼が死という運命は悲しむべきことだ。さてこの短時間の通知でどうやって花嫁を見つけるというのか？ まあ、課題は容易なものに違いない！ （退場）
★１： クラウンは5シリング、つまり1ポンドの4分の1に相当する英国の硬貨だった。100クラウンは25ポンドに相当し、当時としては大金だった。
（ジャック・ポイント、エルシー・メイナード登場。 男女の群衆に付きまとわれている。ポイントとエルシーは恐れおののいている。 ポイントは、しかしながら平静を装っている）
コーラス Here’s a man of jollity
さあ陽気な男が来たぞ、
軽口、冗談、お祭り騒ぎ！
俺たちにお前らの能力を見せるんだ、
さあ、道化て、バカ騒ぎ！
もし気の抜けたほらを吹くなら
川が速く流れている
そこに投げ飛ばそう
歌鳥が歌わないなら！
ためしに見せてみな
陽気さの芸なるものを
投げ込むぞ
鳴かない雄鶏を！
内気を吹き飛ばせ、
それも敏速に
戯言やこじつけを俺たちに
手当たり次第に！
川が鎮まるなんてない、
そこに投げ込もう
道化ない道化師を、
鳴かない雄鶏を！
内気を吹き飛ばせ （繰り返し）
（ダイアローグ）
ポイント： （注目を促して）旦那方、しばし我慢のほどを、我らはあなたたちを満足させましょう、なぜなら我らは陽気な人種であなたたちを我ら同様陽気にさせたいから。ところで、周りをご覧あれ、何にでもユーモアはあるもの、最も真な哲学（知恵への愛）とはユーモアを見出しそれを頂点に押し上げるべくと教えています。
エルシー： （群衆の一人ともみ合いながら） 手を放して、不躾な！
ポイント： （市民１に向かい）エヘン！ あなたは彼女が「手を放して」と言ったのが聞こえなかったのですか？
市民１： そうよ、彼女が言ったのは聞こえたし、彼女が放したのを感じたさ！ それでどうなる？
ポイント： そのユーモアが分かりませんか？
市民１： いいや、分かるんなら俺を吊るしてくれ！
ポイント： 分からぬと？ では見てください。彼女は『手を放して』と言いました。誰の手を？ あなたのです。誰から放す？ 彼女からです。何故なら彼女は女性だからです。さて、彼女が女性でなかったら、あなたは彼女の体に手を置かなかったでしょう。それゆえ手を置くという理由とは手を放す理由になり、この点で否定は否定されたのです！ これはまさに賛成と反対の結婚なるもので； そのような不均衡の相互組み合わせというものは、時は変われど、男性が女性と異なっている以上に賛成は反対と異なっているのです ― それでも男と女は毎日、「ああ、悲しいかな」と一言も言わずに結婚するもの、ただ私と私のような道化を除いては。さてそれではあなたたちを楽しませてよろしいでしょうか？ 私どもカプレット（二行連句）、トリオレット（八行詩）、クォトレイン（四行詩）、ソネット、ロンドレット、バラッドなどお好みの詩を。あるいは踊りなどは、サラバンド、ゴンドレット、キャロール、ピムパーネル、あるいはジャンピング・ジョーンなどを。 ★１
エルシー: 滑稽歌「道化師と彼の乙女」を歌わせてください ― 歌も踊りもあります。
全員: そうだ、「道化師と彼の乙女」を！
★１： サラバンドはカスタネットで踊るスペインの踊り。ゴンドレットはギルバートによる架空の踊りらしい。キャロールは男女が輪になって踊るもの。ピムパーネルはギルバートによる架空の踊り。ジャンピング・ジョーンはカントリー・ダンス。
デュエット ― エルシー＆ポイント I have a song to sing, O
ジャック 僕には歌う歌がある、オー！
エルシー あなたの歌を歌ってよ、オー！
ジャック 月が歌われたものなのさ
愛に見捨てられた間抜けによってね、
彼はあざける群衆から逃げたのさ、オー！
それはふさぎ込んで口を開かない道化の歌、
彼の心は悲しみに満ちて、彼の姿は陰欝、
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
ヘイディ！ ヘイディ！
惨めな自分 ― 気力もなくし！
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
エルシー 私には歌う歌がある、オー！
ジャック 君の歌は何の歌なの、オー！
エルシー それは鐘をならして歌う歌
娘が歌う歌
彼女は一生かけて恋人を愛した、オー！
道化娘の歌、貴族の高慢、
彼女は貴族に恋をし、彼は高笑いした、
それはふさぎ込んで口を開かない道化の歌、
彼の心は悲しみに満ちて、彼の姿は陰欝
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
ヘイディ！ ヘイディ！
惨めな自分 ― 気力もなくし！
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
ジャック 僕には歌う歌がある、オー！
エルシー あなたの歌を歌ってよ、オー！
ジャック 弔いの鐘が歌われたものなのさ
教会の鐘のこと
そして悲し気な哀歌は、ディン・ドンと、オー！
気取り屋の歌、立派な生まれの男、
彼は鼻を高くして嘲る
惨めな道化娘に対し、貴族の高慢
彼女は貴族に恋をし、彼は大笑いした、
それはふさぎ込んで口を開かない道化の歌、
彼の心は悲しみに満ちて、彼の姿は陰欝
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
ヘイディ！ ヘイディ！
惨めな自分 ― 気力もなくし！
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
エルシー 私には歌う歌がある、オー！
ジャック 君の歌は何の歌なの、オー！
エルシー それはため息の歌
そして目にためた涙、
それが伝えるは正しいことが間違ったことに、オー！
道化娘の歌、かつては陽気だった、
彼女は踵を返しつまずいた
見栄っ張りの気取り屋から、立派な生まれの男
彼は鼻を高くして嘲る
惨めな心に対し彼は称賛もしない
だから彼女はひざまずき懇願した、意気消沈した目でもって、
それはふさぎ込んで口を開かない道化の歌、
彼の心は悲しみに満ちて、彼の姿は陰欝
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
全員 ヘイディ！ ヘイディ！
惨めな自分 ― 気力もなくし！
彼はスープも喉を通らず、パンのひとかけらさえも懇願しない、
そして彼はある淑女のためにため息する。
（ダイアローグ）
市民１： 好き歌それに好き踊りだ！
市民２： キスしてあげよう、かわい子ちゃん！
全員： そうだ、みんなにキスするんだ。
エルシー： （短剣を抜きながら） 危ないわよ、私は武器を持っているの！
ポイント： 下がって、旦那方 ― 下がって！ これはやりすぎでは！
市民２： お前はユーモアがないのか、えっ！ 何にでもユーモアがあるんだろ ― このようなことにも。（彼女にキスしようとする）
エルシー： 助けて！ 助けて！
（塔副長官、警護とともに登場、群衆は後ずさりする）
副長官： この騒動はなんだ？
エルシー： お殿様、私たちはこの人たちのために歌いました、それなのに彼らは報酬として酷い礼儀で報いていました、あなた様が来る前は。
副長官： （暴徒へ）消えろ！ 野次馬を一掃せよ。（警護、官群衆を押しのけ、彼らと共に退場）さて娘よ、そなたの名前は、そしてここで何をしておる？
エルシー： あなた様によろこんでいただけるとよいのですが、お殿様、私たち二人は旅回りの団員、ジャック・ポイントと私、エルシー・メイナードです。私たちは市(いち)から市を回り、歌い、踊り、幕あいには余興を； それで私たちは貧しく暮らしております。
副長官： そなたたち二人でと？ 二人は夫婦なのか？
ポイント： いいえ、お殿様； 私めは馬鹿な道化ではありますが自分の馬鹿さ加減には限度があります。彼女の老いた母親、ブリジット・メイナードは私たちと旅回りをしています （エルシーは良き少女である故）、しかし老女は熱病で床に臥せております、それで私たちは彼女に舐剤を買うべく、いくらかの銀貨を得に来たのです。
副長官： 聴きなさい、娘御よ！ そなたの母親は病気とな？
エルシー： ひどく苦しんでおります、お殿様。
副長官： それで良き糧が必要と、それにそなたには買えぬ様々なものが必要と？
エルシー： ああ！ お殿様、まったくその通りです。
副長官： 100クラウンの金を稼ぐ気はあるか？
エルシー： 100クラウン！ 母はそれで助かるはず！
副長官： では聞きなさい！ 価値ありしかし不幸な紳士がこの一時間内に打ち首になろうとしておる。ある重大な理由で、彼は死ぬ前に結婚することを望んでおる、それで彼は私に彼の妻となる人間を見つけるように頼んだのだ。そなたはその妻になる気はあるか？
エルシー： お会いしたこともない人の妻とは！
ポイント： なんと、お殿様、いいですか、このことに自分は関わっています； 私めはまだエルシー・メイナードと結婚していないとはいうものの、時間は奇跡を起こすもの、我々の間になにかが待っているかは誰にも分からない。その紳士が今日この日に死ぬという閣下の言葉を受け入れていいのですか？
副長官： 確実なものなどないと残念ながら言わざるを得ない。
ポイント： それでその娘は式のすぐ後に別れることが許されるのですか？
副長官： 即刻だ。我が名誉にかけて誓おう。
ポイント： 100クラウンですか？
副長官： 100クラウンだ！
ポイント： 我が役割として、同意いたしましょう。エルシーの代わりに答えます。
トリオ ― エルシー、ポイント、副長官 How say you, maiden, will you wed
副長官 どう答えるのだ、乙女よ、結婚するか
首を切られようとしている男と？
あと半時間で
そなたは彼の妻。
その後寡婦産は
生涯そなたのもの。
首のない花婿をなぜ断る道理が？
詩人の言葉が正しいというのなら、
大半の花婿は、結婚以前に、
頭と心を同じように亡くすもの！
エルシー あなた様は奇妙な申し出をなされます、
私の感覚をほぼ麻痺させてしまいます。
ああ！ 私がとても貧しいのは事実、
そしてそのような金額を私は激しく必要とします。
私の母は、お殿様、瀕死の状態です、
このお金が命をもたらすやも
心の中で耐えましょう、どうか、もし私が
これに同意するなら！
ポイント たとえ人生の一般的な決まりとしだとしても
私めが許せないのは我が約束された妻が、
我が愛おしい花嫁になるべく人が、
自分以外の誰かと結婚するとは、
それでも褒賞が事前に支払われるならば、
それに彼は、当然の報いが墓場なら、
一時間内というのが当然用意されている、
反対意見を私めは放棄しましょう！
そう、反対意見を私めは放棄しましょう！
全員 魅惑、ああ、魅惑
我らが仮に、どうか、意図するならば
避けることは、我らの状況がどうあれ、
君（金）の魅力は素晴らしい；
あるいは堕落か、いかなる時も君を見る目は、
頭からつま先まで君に夢中なの？
魅惑、ああ、魅惑 （繰り返し）
（この間、副長官はウィルフレッドにこっそり話しかける（彼が登場する）。ウィルフレッドはエルシーをネッカチーフで目かくしし、彼女をコールド・ハーバー・タワーに導く）
（ダイアローグ）
副長官： そう、善き男よ、君は道化師なのか？
ポイント： そうです、お殿様、我がおちゃらけ同様に場違いなもので。
副長官： その職には空きがある。教えて欲しい、その職についてのそなたの適性はどうなのだ？
ポイント： おやまあ、殿様、私めには十分な頓智があります。即座の韻文、軽口と謎かけで旦那様を痙攣させます； 私めの舌先には軽妙な哲学が； 場を明るくできますし、博識にも、優美にも、厳格にも、冷笑にも、それぞれ別に、あるいは一度に全部； 逸話に目を向けることも； あらゆるおちゃらけに精髄しており ― 古代も近代も ― 過去、現在、未来、夜明けから夜更けまでなぞなぞを出してあげましょう、それに、それらで満足できなければ、夜中までそれに夜が明ける前の小一時間も。ああ、お殿様、十分な頓智が、その点は保証します、とても十分な頓智が！
レシタティーヴ＆独唱 ― ポイント I’ve jibe and joke and quip and crank
私めにあるのは軽口、冗談
それに皮肉と言葉もじり
下層の庶民向けも
高位の人たち向けも
我が巧みに精魂こめましょう
恐れを知らずに。
それも皮肉の矛先は
王子であろうと貴族であろうと。
貴族でも王子でも ― 王子でも貴族でも、
皮肉の矛先は恐れを知らずに向けましょう！
我の博識は東から西から、
学問の壁を越えて主題としましょう；
あなたは軽口のなかにあざけりを見つけるやも
それとも道化の愚行に核心を抜き出すやも。
私めはあなたに皮肉をお教えしましょう、その気があれば；
あなたをごまかして笑いの学習をさせましょう；
ああ、ふるいにかけましょう、私めの愚行の数々から、それで発見するは
もみがらの中から真実という粒をひとつかふたつ！
ああ、ふるいにかけましょう、あらゆる愚行から、それで発見するは
もみがらの中から真実という粒をひとつかふたつ！
私めは皮肉でもって自慢ばかりの輩をたじろがせることも出来、
成り上がりを軽い言い回しで萎れさせることも；
彼は口先だけの笑い顔を作っているかも、
しかし彼の笑い声にはいかめしさの響き！
彼らが陽気な見せかけを世間に示しても、
不快な真実が意思によってのみ込まれてしまう ―
彼の仲間を賢くしたいと願う者は
常に哲学という丸薬の表層を甘味で覆うべきもの！
（ダイアローグ）
副長官： それで最後の雇い主とはどうして離れたのだ？
ポイント： なんと、殿様、こんな風にです。私めの主人はカンタベリー大主教だったのです、それで私めの放った冗談が睨下の内輪連中には不愉快だったようで。実の話、自分はくだらない謎をかけたのです、 ― 陛下と卑しむべきジャック・ポイントとの違いはどこか？ 陛下は快く降参したのです。それから私めはあの方に答えたのでした、陛下には生活のため年 10,000ポンドが支払われ、哀れなジャック・ポイントはろくでなしだと。 ★１ それはただの悪気のない冗談でした、しかし陛下への攻撃とみなされ、陛下は下卑たごろつきとして鞭打ちと木枠に足を拘束する刑に、それで我々は別れたのでした。私めは快くこれ以上高位の聖職者の下に二度と就かないこと決めたのです。
副長官： しかしそなたは気をつけて攻撃的にならないと信じておるぞ。 私には娘がいるのでな。
ポイント： 殿、私めのおちゃらけは十分配慮して選ばれたものです、それに攻撃的なものは抹消いたします。もし閣下がよろしければ、最初に閣下に所属する軍付き司祭から試してみましょう。
副長官： 例を挙げてもらえぬか？ 仮に儂(わし)が急いで何か尖ったものの上に腰かけたらどう言う？
ポイント： 殿、私めならあなたはスパッと腰かけたと申しましょう。 ★２
副長官： へっ！ それほどでもないが。それがお前に出来る最良のものか？
ポイント： いつもはもうちょっと称賛されるのですが、殿、もう一度試してみては？
副長官： まあでは、儂が夕食の席についているとする、しかし肉塊の火が十分通ってなかった場合は？
ポイント： それならば、殿、私めはこう言いましょう、生焼けは出しようがないと。 ★３
副長官： そうか。なんとなく癪にさわるものだ。
ポイント： 最初は、殿、多分； しかし使用が何ものにも勝る、いずれ好きになるはず。
副長官： これはどうじゃ、儂のすぐ前でそなたが料理女にキスしているのを見かけたとしたら。
ポイント： 彼女のすぐ前でです、殿、あなたのすぐ前でではありません。自分は女の前でキスしたいと思います。 ★４ 採用されますか？ ああ、殿、けっこうな頓智でしょ、けっこうな。
副長官： 娘御が来る。ついて来るのだ、友よ、この件は書斎で詳細に話すことにしよう。
ポイント： 私めが閣下の家来に。そうなることと信じています。しかしより深刻な話を進める前に、どうです、コックの頭蓋骨とかけて、ねじを巻きすぎた時計と解く、その心は？ ★５
副長官： 冗談ごっこは休戦じゃ ― ついてまいれ。
ポイント： なんてことだ ― 史上最高の謎かけが無駄になった。
注： ジャック・ポイントのジョークを理解できているとはいいがたいが多分それらしい解釈を上げると、
★１： 大司教の「生活のため」は“for being good” が原文で「十分満足に」ともとれる。道化師の「ろくでなし」は“good for nothing” というイディオムが原文だが、「生活費支給されず」とも解釈できる、という冗談なのだろうか？
★２： 原文は“on the spur of the moment”で「突然に」というイディオム。 spur は拍車、鉤爪、鳥の蹴爪など尖っているものを意味する。
★３： 原文は“what is underdone cannot be helped” で「生焼けは供すことなかれ」ということらしいが、「生半可な仕事はどうしようもない」とののダブル・ミーニングなのか？
★４： 「誰々のすぐ前で」は “under someone’s nose” というイディオムの訳。鼻の下にあるのは唇だからどうせならキスの相手は男でなく女にしたいのがポイントの言いたいポイントだろう。
★５： この地口謎の解をギルバートに聞いた人がいたがギルバートは「私自身も知りたい」と答えたという。
（退場、エルシーが塔からウィルフレッドに導かれ登場、彼は彼女の目隠しを取り退場）
レシタティーヴ＆独唱 ― エルシー 'Tis done! I am a bride!
終わったわ！ 私は花嫁！ あら、小さな指輪、
その環が担うはあらゆる歓喜
そは恋人たちの希望、そして詩人の歌、
そなたがわが身にもたらすはただ金と悲しみのみか？
花婿は全く分からず、この方法で大事にしましょう、
今日彼は死ぬ！ 今日、ああ、彼は死ぬ！
たとい涙と長く続くため息だとしても
花嫁には似合わぬこと。
私ほど悲しい妻がいるのだろうか
世界中の中で！
ああ、何と！ ああ、何と！
それでも乙女のまま
どこに失うことに同意する者がいるのか
薔薇の若さのさかりを、
花の一生を、
その存在、飾らぬ真実は、
結婚して妻となった
誰の妻か分からないが！
ああ、何と！ 得られた益は、
おお、ため息する乙女、
黄金は生きながらえるものか
もし結婚した恋人が死ぬことになろうとも？
半時の鐘がなる頃には、
未亡人の私！
ああ、神様、彼はとても若すぎる、
死ぬには勇敢すぎる！
ああ、何と！ ああ、何と！
それでも生きている妻たちはいる
とても疲れ果てて、私が思うに、
彼女たちはほとんど不満を洩らさない
それが彼女たちに出来ること
半時となれば
未亡人として生きることに、
とにかくどうあれ！
おお、疲れ果てた妻たちよ
未亡人生活の人が誰に勝てるというの、
感謝されたし、あなた達には時間がある
うんざりするほどの。
（エルシー退場、ウィルフレッド再登場）
（ダイアローグ）ウィルフレッド： （エルシーを見ながら）死にゆく男と告解者が奇妙な歌姫を連れて独房にこもるのは予想できなかった出来事だ。彼らをひそかに探りたかったが、彼らは鍵穴を塞いでしまった。俺の鍵穴なのに。
（フィービー、メリルとともに登場。メリルは後方に留まりウィルフレッドからは見えない）
フィービー： （小声で）ウィルフレッド ― それも一人！ウィルフレッド： 奴は彼女に何の用事があったのだろう？ それが不思議なところ！
フィービー： （小声で）今こそ彼から鍵を奪おう。（大声で）ウィルフレッド ― 赦免状はまだ届かないの？
ウィルフレッド： いや。あんたが崇めるフェアファクスは死ぬことになるよ。
フィービー： いいえ、知っているでしょ私はあの哀れな有罪判決を下された紳士をただ可哀そうに思っているだけなの。
ウィルフレッド： 知っているさ、死ぬ運命の男より俺の方が君にとって大事なことは、生きていて健康な俺の方が。
フィービー： もちろん、理屈に合わないわ、大事なウィルフレッド。生きているロバは死んだライオンよりましだっていうじゃない？ ★１ いえそういう意味じゃなくて。
ウィルフレッド： 世間では言うのかい？
フィービー： 許しがたい無作法な言い方かも、でもそんな風にいうものなの。あんたに当てはまるわけじゃないわ、あんたはみんな言うより賢いから！
ウィルフレッド： ああそうさ、拷問係補佐としてはね。
フィービー： いいえ、機知ある人として、ユーモリストとして、人間の決心の虚栄に関して最も哲学的な意見者としてよ。
★１： assロバは馬鹿という意味もあるが、聖書『生きている犬は死んだライオンよりまし』の引用をフィービーは、無意識か意図したものかは不明だが、深層心理を示すごとくの間違えた諺を引用している。
（フィービー巧みにウィルフレッドの腰帯につけられた鍵束をとり、 ウィルフレッドに気づかれぬようタワーから登場したメリルに渡す）
ウィルフレッド： まさに、俺はこの説得力のある手段により大きな問題解決をしたのを見てきたものだ（小さな親指締め具を動作させる）。親指締め具の素晴らしい取り締まりにより ― 百分の一ひねりで、石の無口と胸の秘密を明かしたいとのほとばしる衝動の間にある対立を解決させてきたことを、その力はペンだとて追いつけないもの。ハッ！ ハッ！ 俺は陽気なひょうきん者！フィービー： （しかめ面で）あなたはとても軽い心のうれしいお相手よ、ウィルフレッド様。あなたの拷問室に関する逸話は素晴らしき聞き物。
ウィルフレッド： 俺は愉快な男になること選んだんだ。俺は吠える中で最も陽気な犬さ。ああ、俺たちは幸せに一生過ごせるさ ―
フィービー： 多分。わかんないけど。
ウィルフレッド： お前はとっても優しくて愛らしい妻になれるだろう。
フィービー： はい、私が本当に愛した人に対してなら。どこかにこの小さな心臓に宿る愛という富の対象 ― 蓄えておける対象 ― どなたなのかしら？ 今いる世界中の男の人の、どなたなのかしら？ どなたと私が結婚するかと思う彼は今生きていてどこかに！ おそらく遠くの彼方に、おそらく手の届くすぐ近くに！ そして私は彼がだれだか知らない！ 彼を知らないのは時間を無駄にしているように思えるわ。
ウィルフレッド： さあそれは俺だと言おう ― いや！ 目下はそうだとしよう。まあ俺たちが結婚するとしたら ― ただ例えばの話 ― お前が俺の妻だとしよう、それで俺はお前の楽しく、歓びに満ち、浮かれた夫に ― それで一日の仕事が終わったら、それで囚人たちは夜は閉じ込められていて、お前と俺二人だけ ― 長い、長い夕べが二人の前にあるんだ！
フィービー： （しかめ面で） それは凄い想像ね ― でも私には想像できない。それは予期せずに起こる ― それでも ― それでも ― 私があなたの嫁だったら ―
ウィルフレッド： そう！ ― お前が俺の嫁だったら ―？
フィービー： おお、あなたを愛するはずよ！
歌曲 ― フィービー Were I thy bride
あなたの嫁だったら、それならば傍にある全世界は
それほど広くはないわ
愛という富を抱きしめるのは ―
あなたの嫁だったのなら！
あなたの胸にもたれ
我が愛する頭(こうべ)はくつろぐでしょう、
まるで巣に籠る
優しいナゲキバトのように ― ★１
あなたの嫁だったのなら！
この私の心は
あなたのものとなる心、
そしてその聖堂の中では
私たちの幸せが宿るの ―
あなたの嫁だったのなら！
そして一日中
私たちの生活は歌に：
悲しみも、悪いことも
私の心が謀反を起すことはない ―
あなたの嫁だったのなら！
揚げ雲雀のトリルは
ただの不協和音の金切り声
それよりなめらかなトリルは
私が求愛するときの猫なで声 ―
あなたの嫁だったのなら！
（メリル登場して鍵束をフィービーに渡し、フィービーはウィルフレッドの腰帯に戻す、彼に知られずにメリル退場）
バラのため息はまるでハシボソガラスが叫ぶ
子守歌
そんな風に私はあなたに歌う、
あなたの嫁だったのなら！
羽毛の圧迫とは
鉛の重みをもった
私への愛撫。
でもそれでは、もちろん、わかるわね、
私はあなたの嫁にはならないわ。
★１： ナゲキバト＝タートル・ダヴはポピュラーソングでもよく使われるが愛の象徴。ダヴはラヴと韻を踏む数少ない英単語。turtle はラテン語の turtur に由来するといい、その鳴き声 coo coo がエロティックなものを感じさせるからだという。
（フィービー退場）
（ダイアローグ）ウィルフレッド： いいや、お前はおれの嫁じゃない ― まだな。でも、神様、彼女は誘惑したでは。おれは誘惑に関しては嫌味な判事じゃないつもりだ、俺は誰よりも熱く誘惑されて知っている。俺が誘惑されたことがあるのは、女中、未亡人それに人妻だ。俺は大胆に、おずおずと、涙ながらに、恥ずかし気に誘惑されてきたもの ― 直に襲われたことも、提案されたことも、ほのめかされたことも、推定した結果としても、当てこすりでの誘惑など様々されてきた。でもこの誘惑は普通とは違うようだ： 俺を誘惑する必要から誘惑しなければならなかったような、まるで彼女が必死に。
（ウィルフレッド退場、メリル登場、タワーから用心深く）
メリル： （彼らに気を配りながら）実行は、ここまでは、遂行された。悪い女、なんと彼女があの男を甘言で騙したことか！ 恋の病に侵された救いようのない馬鹿め！ あの男は女の手で弄ばれるリュート ― 彼女は男に触れて好きな曲を弾く。でも大佐が来る。我が信念、彼は間に合った、あと２分の彼の処刑のため近衛兵の行進が来ておる！（フェアファクス登場、口ひげ、顎ひげは剃り、近衛兵の制服姿）
フェアファクス： 我が善き情け深い友よ、あなたの駆け足は私を墓へと導く危険がある！メリル： チッ、サー、危険などありませぬ。誰もあなたを認識しないと保証します。あなたは勇敢な近衛兵におなりだ、サー。それゆえ ― この襞(ひだ)襟(えり)は高くしておき； それゆえ ― 剣はこのように下げておく。これはあなたの鉾槍だ、サー、このように持って運ぶのだ。 近衛兵たちが現れた。さて、忘れないように、あなたは私の勇敢な息子、レナード・メリルだ。
フェアファクス： 私本来の名前が許されないなら、他には何もなくすぐに我慢しましょう。
メリル： さあ、サー、威厳ある顔つきを、彼らが来ます。
第一幕 フィナーレ
（近衛兵登場）
コーラス Oh, Sergeant Meryll, is it true?
コーラス おお、メリル軍曹、本当のことですか ―
我らが読んだ命令書にある歓迎すべき知らせは？
あなたのご子息、彼の偉業は大胆不敵な行動
国内中に響き渡っている、
塔の門番の一員として来たと？
そうなら、我らは彼に会いに来たのです、
我らは彼に適宜な挨拶ができるというもの、
彼の来訪を歓迎しましょう
大声で叫び歓声をあげて ―
フラー！ フラー！ フラー！
レシタティーヴ ― メリル軍曹
そなたたち塔の番人たちよ、戦の警報で育ち者たち、
火薬を乳として吸い、栄光で乳離れしてきた、
刮目せよ我が息子を、君らのあらゆる征服の戦は
多くの歌と物語の主題になっておる！
許したまえ彼の年老いた父の誇りを； やじるなかれ
彼の年老いた父は感じやすい涙に！（泣くふりをする）
コーラス レナード・メリル！
レナード・メリル！
危なき時も不屈！
力の男、
騎士道の花、
ようこそ厳格な古き塔へ、
塔へ、そなたを歓迎しよう！
レシタティーヴ ― フェアファクス
慎まれたい、友よ、この喝さいは控えて欲しい、
私はそのような考慮に値するほどではない；
我が武勇伝は語られしもの
桁外れに誇張されたもの！
永遠なれ！
どこにあっても豪勇は分かるもの、
謙虚は多くあるもの。
カプレット（二行連）
近衛兵１ そうなのですか、おお、レナード・メリル殿！
騎兵隊連隊旗は最後の出兵で奪われた、
死の危険のなか取り戻したと ―
安全に取り戻しに掲げたと？
コーラス レナード・メリル、危険の中で、
安全に取り戻し掲げた！
近衛兵２ そうなのですか、囚人として囚われた時
あらゆる脱出を阻まれ、
面したは、勇猛な心は震えることなく、
ひどい形相の死と？
コーラス レナード・メリル、面したは危険と、
ひどい形相の死と！
フェアファクス（小声で）
実際私は同情された、
余命一時間しかないときは、
私はしぶしぶ甘受した、
他に満ちはなかったから！
（大声で） おお、武勇伝は語られしもの
我が大胆不敵の行いは
大きく誇張されしもの、
誇大に誇張されしもの、
真実はわずかの言葉のみ！
コーラス どれも誇張されておらず、
全く誇張などない、
誇張されたはずなどない、
どの言葉も真実なり！
近衛兵３ あなたは、処刑されようと連行された時
まるでいにしえのデミゴッド（半神半人）のように、
英雄的な決心により
剣をひったくり何人も殺した。
コーラス レナード・メリル、レナード・メリル
剣をひったくり何人も殺した！
近衛兵４ それから敵陣から脱出し、
あなたの流した血は詰まった、
あなたは、ふてぶてしく、誰をも恐れず、
守ったはあなたの名誉と頭(こうべ)！
コーラス レナード・メリル、レナード・メリル
守ったはあなたの名誉と頭。
フェアファクス（小声で）
まさにその通り、我が道は形を判断するに、
気に入られている、同じく、幸運の星に、
私は脱出に成功してきた
監獄のかんぬきそして監獄の鉄格子から！
（大声で） おお、武勇伝は語られしもの
我が大胆不敵の行いは
大きく誇張されしもの、
真実はわずかの言葉のみ！
コーラス どれも誇張されておらず、（繰り返し）
（フィービー登場、彼女はフェアファクスに駆け寄る。ウィルフレッド登場）
フィービー レナード！
フェアファクス （当惑して） 失礼どなたかな？
フィービー 私が分からないの？
フェアファクス （まだ当惑） フィービー？ フィービーなのか？
何と！ 小さなフィービー？ （小声で）
一体彼女は誰なのか？
フィービーのはずない、本当かい？
ウィルフレッド そうだ、フィービーだ ―
君の妹のフィービーだ！ 君自身の妹だ！
全員 そう、彼の言うことは本当だ；
フィービーさんだ！
フェアファクス （気づいたふりをして） 妹のフィービー！
フィービー ああ、兄さん！
ウィルフレッド おお、彼を抱いたらどうだ、嬢ちゃん！ お前が抱けるのは三人 ―
お前の父君と兄者、それに ― 俺自身！
フェアファクス 君自身、いかにも？ ところで君自身は誰かね？
ウィルフレッド よろしい、サー、俺たちは婚約しているんだ。
（フェアファクス詮索すべくフィービーを向く）
フィービー 多かれ少なかれ ―
しかしどちらかというと多かれより少なかれの方が勝るわ！
ウィルフレッド 君の好意に甘えたい
俺は君の妹を称賛している。 彼女を
永遠に監視する守護者になってくれ ― 鷲の目でもって！
そして彼女の気分が （彼女はときどき気分がそうなる）
不安で見境なくなりがちになったら、
近くにいて彼女からその好意を受け取って欲しい！
コーラス 近くにいて彼女からその好意を受け取って欲しい！
フィービー そうよ、そうして。
近くにいて私からその好意を受け取って欲しい！
トリオ ― ウィルフレッド、フェアファクス、フィービー
To thy fraternal care, thy sister I commend
ウィルフレッド 君の兄弟愛を
君の妹にと俺は命ず；
様々に潜む罠から
君の愛らしい挑戦が護る
そしてこの目的を達成するため、
おお！ 認められたし、どうか、この恵みを ―
彼女は我が視界から消えてはならぬと；
朝ぼらけから昼時まで ―
昼時から夜まで ―
七時から二時まで ―
二時から夕間暮れまで ―
薄明りのたそがれ時から夜の十一時まで、
彼女は君の傍を離れてはならぬ！
コーラス 朝ぼらけから昼時まで、（繰り返し）
フィービー とても気立てよく私は育った、
とても無邪気にも、
だからもし私が一人にされたら
結果は滅亡
どんな人間にも予測できぬもの。
だから認められたし、どうか、この恵みを ―
私はあなたの視界から消えることはありません：
朝ぼらけから昼時まで ―
昼時から夜まで ―
七時から二時まで ―
二時から夕間暮れまで ―
薄明りのたそがれ時から夜の十一時まで、
私は決してあなたの傍を離れません！
コーラス 朝ぼらけから昼時まで、（繰り返し）
フェアファクス 兄としての覚悟をもって、
可愛い妹のために、
即答しよう 「イエス」と ―
課せられし責務 ―
我が言葉を破ることはない。
私は自由にその恵みを受け入れよう、
そして私は誓いを繰り返そう、
朝ぼらけから昼時まで ― （キス）
昼時から夜まで ―（キス）
七時から二時まで ―（キス）
二時から夕間暮れまで ―（キス）
薄明りのたそがれ時から夜の十一時まで、
その盟約を私は封じよう。（キス）
コーラス 朝ぼらけから昼時まで、（繰り返し）
（聖ピーターズ教会の鐘がなる。群衆が入ってくる； 断頭台が刑場に設置され、首切り役人が位置につく。 近衛兵たちが隊列をなす。塔副長官が登場し位置につきフェアファクス他二名に囚人を連れてくるよう命令する。フェアファクス、ウィルフレッド、他二名の近衛兵が塔の方に退場する）
コーラス（鐘の音が伴奏となる） The pris'ner comes to meet his doom
運命に対峙すべく囚人が来ようとしている；
断頭台、首切り役人、それに墓石、
葬送の鐘が鳴り始めた ―
彼の魂に神のご慈愛あらんことを！
独唱 ― エルシーとコーラス
おお、ご慈愛を、あなたの微笑みは輝いている、
かくも数多の捕らわれし心が天に；
長くこの塔の壁に幽閉されていた、
今日の日は最も価値ある降臨！
コーラス おお、ご慈愛を （繰り返し）
（フェアファクスと二人の近衛兵がタワーからひどく興奮した様子で登場）
フェアファクス
おお殿さま！ どう言えばいいのか
知らせがあります！
私と仲間たちは囚人部屋を捜しました ―
彼はそこにいなかったのです！
コーラス 彼はそこにいなかった！
彼らは囚人の部屋を捜した ― 彼はそこにいなかった！
トリオ ― フェアファクスと二人の近衛兵 As escort for the prisoner
囚人を連行しようとすべく
我らは彼の部屋を捜した、義務ゆえに；
二重の格子は開かれていたのです、
囚人が全くいないことに気づいたのです！
我々は高くを追い、低くを追いました、
我々はここを追い、あそこを追いました ―
我々が探した気がかりな男は
空中へと消えたのです！
（副長官退場）
女性たち さて、真実は、知らせは明らか、
あの男は空中へと消えてしまった！
全員 囚人を連行しようとすべく
我らは/彼らは彼の部屋を捜した、義務ゆえに （繰り返し）
（副長官登場、ウィルフレッドを従えて）
副長官（ウィルフレッドに向かい）
驚くべき知らせ！ 囚人が逃げた！
そなたの生活は対価として没収する！
（ウィルフレッド逮捕される）
ウィルフレッド 殿様、自分は彼を逃したりはしていません、
俺はあの男を憎んでいたんです ― 恋敵が彼だった！
（ウィルフレッド連れられて行く）
メリル 囚人が逃げたと ― 唖然とする話じゃ！
誰が彼の逃亡を手助けしたのだろう？
フィービー 本当に私には誰か想像できないわ！
全く見当もつかないわ、お父様には分かる？
（ジャック・ポイント登場）
婦人 彼が逃亡した足跡さえない、
魔法が働いたに違いないわ！
エルシー（ポイントにささやく）
私のしてしまったことといったら？ おお、悲痛が私に！
私は彼の妻、そして彼は逃げている！
ポイント おお、悲痛が君に？ きみの苦悶は小さなもの！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
そう、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
何が起きたにせよ
君は彼の嫁、
そして俺はおきざりに
ひとりぼっち ― 奪われた！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
アンサンブル ― 副長官 等
All frenzied, frenzied with despair they rave
みな乱心している、私が/彼らはわめきながら、
墓穴はその義務を逃れた。
誰なのか、誰がいやしむべき悪党か
誰がこの行為をもくろんだのだろう？
捜索しよう、国中くまなく、
あるいは彼の/私の復讐心に燃える怒りにおののくがよい ―
1000 マークの賞金が彼に/私に渡されるだろう ★１
彼をここに連れてきた人に、生死は不問で。
★１： マークは13.33 シリングまたは 1 ポンド スターリング (75) の 3 分の 2 の価値がある中世のイギリスのコイン。 その報酬は副長官の給料の6年分以上に相当するだろう。
（最後にエルシーは失神してフェアファクスの腕に倒れ込む；
近衛兵全員と大衆はそれぞれ異なる方向に急いで退場する、
逃亡者を追跡するため、残されたのは首切り役人とフェアファクスの腕に抱かれたエルシーのみ）
第二幕 に続く
（近衛兵登場）
コーラス Oh, Sergeant Meryll, is it true?
コーラス おお、メリル軍曹、本当のことですか ―我らが読んだ命令書にある歓迎すべき知らせは？
あなたのご子息、彼の偉業は大胆不敵な行動
国内中に響き渡っている、
塔の門番の一員として来たと？
そうなら、我らは彼に会いに来たのです、
我らは彼に適宜な挨拶ができるというもの、
彼の来訪を歓迎しましょう
大声で叫び歓声をあげて ―
フラー！ フラー！ フラー！
レシタティーヴ ― メリル軍曹
そなたたち塔の番人たちよ、戦の警報で育ち者たち、
火薬を乳として吸い、栄光で乳離れしてきた、
刮目せよ我が息子を、君らのあらゆる征服の戦は
多くの歌と物語の主題になっておる！
許したまえ彼の年老いた父の誇りを； やじるなかれ
彼の年老いた父は感じやすい涙に！（泣くふりをする）
コーラス レナード・メリル！
レナード・メリル！
危なき時も不屈！
力の男、
騎士道の花、
ようこそ厳格な古き塔へ、
塔へ、そなたを歓迎しよう！
レシタティーヴ ― フェアファクス
慎まれたい、友よ、この喝さいは控えて欲しい、
私はそのような考慮に値するほどではない；
我が武勇伝は語られしもの
桁外れに誇張されたもの！
永遠なれ！
どこにあっても豪勇は分かるもの、
謙虚は多くあるもの。
カプレット（二行連）
近衛兵１ そうなのですか、おお、レナード・メリル殿！騎兵隊連隊旗は最後の出兵で奪われた、
死の危険のなか取り戻したと ―
安全に取り戻しに掲げたと？
コーラス レナード・メリル、危険の中で、
安全に取り戻し掲げた！
近衛兵２ そうなのですか、囚人として囚われた時
あらゆる脱出を阻まれ、
面したは、勇猛な心は震えることなく、
ひどい形相の死と？
コーラス レナード・メリル、面したは危険と、
ひどい形相の死と！
フェアファクス（小声で）
実際私は同情された、
余命一時間しかないときは、
私はしぶしぶ甘受した、
他に満ちはなかったから！
（大声で） おお、武勇伝は語られしもの
我が大胆不敵の行いは
大きく誇張されしもの、
誇大に誇張されしもの、
真実はわずかの言葉のみ！
コーラス どれも誇張されておらず、
全く誇張などない、
誇張されたはずなどない、
どの言葉も真実なり！
近衛兵３ あなたは、処刑されようと連行された時
まるでいにしえのデミゴッド（半神半人）のように、
英雄的な決心により
剣をひったくり何人も殺した。
コーラス レナード・メリル、レナード・メリル
剣をひったくり何人も殺した！
近衛兵４ それから敵陣から脱出し、
あなたの流した血は詰まった、
あなたは、ふてぶてしく、誰をも恐れず、
守ったはあなたの名誉と頭(こうべ)！
コーラス レナード・メリル、レナード・メリル
守ったはあなたの名誉と頭。
フェアファクス（小声で）
まさにその通り、我が道は形を判断するに、
気に入られている、同じく、幸運の星に、
私は脱出に成功してきた
監獄のかんぬきそして監獄の鉄格子から！
（大声で） おお、武勇伝は語られしもの
我が大胆不敵の行いは
大きく誇張されしもの、
真実はわずかの言葉のみ！
コーラス どれも誇張されておらず、（繰り返し）
（フィービー登場、彼女はフェアファクスに駆け寄る。ウィルフレッド登場）
フィービー レナード！フェアファクス （当惑して） 失礼どなたかな？
フィービー 私が分からないの？
フェアファクス （まだ当惑） フィービー？ フィービーなのか？
何と！ 小さなフィービー？ （小声で）
一体彼女は誰なのか？
フィービーのはずない、本当かい？
ウィルフレッド そうだ、フィービーだ ―
君の妹のフィービーだ！ 君自身の妹だ！
全員 そう、彼の言うことは本当だ；
フィービーさんだ！
フェアファクス （気づいたふりをして） 妹のフィービー！
フィービー ああ、兄さん！
ウィルフレッド おお、彼を抱いたらどうだ、嬢ちゃん！ お前が抱けるのは三人 ―
お前の父君と兄者、それに ― 俺自身！
フェアファクス 君自身、いかにも？ ところで君自身は誰かね？
ウィルフレッド よろしい、サー、俺たちは婚約しているんだ。
（フェアファクス詮索すべくフィービーを向く）
フィービー 多かれ少なかれ ―しかしどちらかというと多かれより少なかれの方が勝るわ！
ウィルフレッド 君の好意に甘えたい
俺は君の妹を称賛している。 彼女を
永遠に監視する守護者になってくれ ― 鷲の目でもって！
そして彼女の気分が （彼女はときどき気分がそうなる）
不安で見境なくなりがちになったら、
近くにいて彼女からその好意を受け取って欲しい！
コーラス 近くにいて彼女からその好意を受け取って欲しい！
フィービー そうよ、そうして。
近くにいて私からその好意を受け取って欲しい！
トリオ ― ウィルフレッド、フェアファクス、フィービー
To thy fraternal care, thy sister I commend
ウィルフレッド 君の兄弟愛を君の妹にと俺は命ず；
様々に潜む罠から
君の愛らしい挑戦が護る
そしてこの目的を達成するため、
おお！ 認められたし、どうか、この恵みを ―
彼女は我が視界から消えてはならぬと；
朝ぼらけから昼時まで ―
昼時から夜まで ―
七時から二時まで ―
二時から夕間暮れまで ―
薄明りのたそがれ時から夜の十一時まで、
彼女は君の傍を離れてはならぬ！
コーラス 朝ぼらけから昼時まで、（繰り返し）
フィービー とても気立てよく私は育った、
とても無邪気にも、
だからもし私が一人にされたら
結果は滅亡
どんな人間にも予測できぬもの。
だから認められたし、どうか、この恵みを ―
私はあなたの視界から消えることはありません：
朝ぼらけから昼時まで ―
昼時から夜まで ―
七時から二時まで ―
二時から夕間暮れまで ―
薄明りのたそがれ時から夜の十一時まで、
私は決してあなたの傍を離れません！
コーラス 朝ぼらけから昼時まで、（繰り返し）
フェアファクス 兄としての覚悟をもって、
可愛い妹のために、
即答しよう 「イエス」と ―
課せられし責務 ―
我が言葉を破ることはない。
私は自由にその恵みを受け入れよう、
そして私は誓いを繰り返そう、
朝ぼらけから昼時まで ― （キス）
昼時から夜まで ―（キス）
七時から二時まで ―（キス）
二時から夕間暮れまで ―（キス）
薄明りのたそがれ時から夜の十一時まで、
その盟約を私は封じよう。（キス）
コーラス 朝ぼらけから昼時まで、（繰り返し）
（聖ピーターズ教会の鐘がなる。群衆が入ってくる； 断頭台が刑場に設置され、首切り役人が位置につく。 近衛兵たちが隊列をなす。塔副長官が登場し位置につきフェアファクス他二名に囚人を連れてくるよう命令する。フェアファクス、ウィルフレッド、他二名の近衛兵が塔の方に退場する）
コーラス（鐘の音が伴奏となる） The pris'ner comes to meet his doom
運命に対峙すべく囚人が来ようとしている；断頭台、首切り役人、それに墓石、
葬送の鐘が鳴り始めた ―
彼の魂に神のご慈愛あらんことを！
独唱 ― エルシーとコーラス
おお、ご慈愛を、あなたの微笑みは輝いている、かくも数多の捕らわれし心が天に；
長くこの塔の壁に幽閉されていた、
今日の日は最も価値ある降臨！
コーラス おお、ご慈愛を （繰り返し）
（フェアファクスと二人の近衛兵がタワーからひどく興奮した様子で登場）
フェアファクスおお殿さま！ どう言えばいいのか
知らせがあります！
私と仲間たちは囚人部屋を捜しました ―
彼はそこにいなかったのです！
コーラス 彼はそこにいなかった！
彼らは囚人の部屋を捜した ― 彼はそこにいなかった！
トリオ ― フェアファクスと二人の近衛兵 As escort for the prisoner
囚人を連行しようとすべく我らは彼の部屋を捜した、義務ゆえに；
二重の格子は開かれていたのです、
囚人が全くいないことに気づいたのです！
我々は高くを追い、低くを追いました、
我々はここを追い、あそこを追いました ―
我々が探した気がかりな男は
空中へと消えたのです！
（副長官退場）
女性たち さて、真実は、知らせは明らか、あの男は空中へと消えてしまった！
全員 囚人を連行しようとすべく
我らは/彼らは彼の部屋を捜した、義務ゆえに （繰り返し）
（副長官登場、ウィルフレッドを従えて）
副長官（ウィルフレッドに向かい）驚くべき知らせ！ 囚人が逃げた！
そなたの生活は対価として没収する！
（ウィルフレッド逮捕される）
ウィルフレッド 殿様、自分は彼を逃したりはしていません、俺はあの男を憎んでいたんです ― 恋敵が彼だった！
（ウィルフレッド連れられて行く）
メリル 囚人が逃げたと ― 唖然とする話じゃ！誰が彼の逃亡を手助けしたのだろう？
フィービー 本当に私には誰か想像できないわ！
全く見当もつかないわ、お父様には分かる？
（ジャック・ポイント登場）
婦人 彼が逃亡した足跡さえない、魔法が働いたに違いないわ！
エルシー（ポイントにささやく）
私のしてしまったことといったら？ おお、悲痛が私に！
私は彼の妻、そして彼は逃げている！
ポイント おお、悲痛が君に？ きみの苦悶は小さなもの！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
そう、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
何が起きたにせよ
君は彼の嫁、
そして俺はおきざりに
ひとりぼっち ― 奪われた！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
おお、悲痛は俺だ、むしろそう思う！
アンサンブル ― 副長官 等 All frenzied, frenzied with despair they rave
みな乱心している、私が/彼らはわめきながら、墓穴はその義務を逃れた。
誰なのか、誰がいやしむべき悪党か
誰がこの行為をもくろんだのだろう？
捜索しよう、国中くまなく、
あるいは彼の/私の復讐心に燃える怒りにおののくがよい ―
1000 マークの賞金が彼に/私に渡されるだろう ★１
彼をここに連れてきた人に、生死は不問で。
★１： マークは13.33 シリングまたは 1 ポンド スターリング (75) の 3 分の 2 の価値がある中世のイギリスのコイン。 その報酬は副長官の給料の6年分以上に相当するだろう。
（最後にエルシーは失神してフェアファクスの腕に倒れ込む； 近衛兵全員と大衆はそれぞれ異なる方向に急いで退場する、 逃亡者を追跡するため、残されたのは首切り役人とフェアファクスの腕に抱かれたエルシーのみ）
第二幕 に続く
参考ページ
・台本： ギルバート＆サリヴァン・アーカイヴ のページ
・用語： G&S Lexicon
・解説： Wikipedia
参考とした映像
・ YouTube The Yeomen of the Guard, by Gilbert and Sullivan (2009 production)
上演時間 2時間35分で、ほぼ台本通りの劇となっている。
・ YouTube The Yeomen of the Guard, by Gilbert and Sullivan (2012 production)
上演時間 2時間23分（ダイアローグは一部略されている）
・ dvd： 1982年の BBC 作品で道化師役はキャバレーのMC を演じたジョエル・グレイ。
上演時間１時間55分。放映時間の関係だろうがいくつかの歌、セリフはカットされている。
またダグラス・フェアバンクス・ジュニアの解説があり、実質１時間50分程の劇。
2023/12/25 訳
2024/01/10 誤字等修正
2024/01/25 PDF文書 から html に変更
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