オスカー・ハマースタインの微妙な I Love You

最初のミュージカルという人もいる『ショーボート』 (Show Boat, 1927) で歌詞を書いたオスカー・ハマースタインは、互いに惹かれているキャプテンの娘マグノリアと、しがないギャンブラーのゲイロードが互いの気持ちを告白する時に Make Believe という歌で二人の気持ちを表しています。

　　『僕が君を愛しているふりをすることが出来るよね。
　　　君が愛していると思えばいいのさ。
　　　想像するだけでいいのさ。口づけすると想像してごらん・・・』

男は強引に女性を口説くのではなく、『恋人になったふりをしてみよう』と古風でみやびな、遠慮がちな愛の告白をしています。
台本も書いたハマースタインなので主人公のキャラクターや状況を明確にするためこのような歌詞になったのだと思います。しかし劇に合わせて歌詞を工夫する点は、同じポピュラーソング黄金時代の作詞家であるロレンズ・ハート、アイラ・ガーシュイン、コール・ポーター、時代は少し下ってジョニー・マーサーなどの歌詞作りと異なるところのようでオスカー・ハマースタインの生真面目さがうかがえます。

ところで同じように、互いに惹かれあっているのにアイ・ラヴ・ユーを遠慮してストレートに言えないという、登場人物の心の中を表現する劇場的な歌をオスカー・ハマースタインは別のミュージカルでも書いているのではないかと思います。

一つは、最初のロジャーズ＆ハマースタイン作品でありミュージカルの革新作と言われる『オクラホマ』 (Oklahoma, 1943) の People Will Say We're In Love （恋仲と人は言う）です。
ここでの主人公カーリィとローリィは愛し合っているがローリィの若き恥じらいがカーリィを好きでないという態度をとらせるため二人は喧嘩ばかりしています。その気持ちを表したデュエットがこの歌で、

　　『私に花束を投げないで、私の冗談にそんなに笑わないで、・・・・
　　　みんなが私たちが恋仲だと言うでしょう』

ハマースタインによれば『僕らは普通の "I love you" 式の歌は書けそうにもなく、この二人の取っている態度にそった恋の歌を書かなければならないと思った・・・』と言っていますがこれも I Love You の歌と言えるでしょう。（参考：書籍『ジャズ詩大全』 Vol.11 ）

『オクラホマ』というシリアスなミュージカル・ドラマは好みの分かれる所だと思いますが、この歌はデュエット曲で、フランク・レッサーの "Baby, It's Cold Outside" 、最近聞くことの少ないアーヴィング・バーリンの Anything You Can Do 、ハマースタインと組む前の黄金コンビ、ロジャーズ＆ハートの I Wish I Were in Love Again 、などとともに男女かけあいの楽しい歌の定番曲ではないでしょうか。

二つ目にあげるのは、ロジャーズ＆ハマースタイン第二作目のミュージカル『回転木馬』 (Carousel, 1945) の中の If I Loved You (もしあなたを愛していたら）です。
回転木馬のオペレータであるプレイボーイのビリーと、紡績工場で働く生真面目だが風変わりな少女ジュリーは互いに惹かれています。公園のベンチのシーンで、ビリーは自分のようなやくざな男にジュリー・ジョーダンが付いて来るのが信じられません。ビリーは、「二人が結婚すると想像してみたら．．．」と探りを入れますが、ジュリーは「分からないわ、もしあなたを愛していたら」と言って歌います。

　　『もしあなたを愛していたら、何度でもそう言おうと思うはず、
　　　もし愛していたら、言葉に上手く出せないと思うわ。言う機会を逃してしまい
　　　あなたが永遠に知ることはないわ、愛していても．．．』

ジュリーの歌を聞いたビリーは「とにかく君は僕を好きじゃないってことだね」と聞きますがジュリーは花の香りがするといってごまかします。
この後、探りあいのような会話が続き今度はビリーが同じ歌を歌うのですが、なんとも分かりにくく微妙な愛の告白でしょう。
（歌詞の冒頭は、 If I loved you, Time and again I would try to say で英語の文法でいうところの仮定法過去の歌詞だと思います。日本人にはなじみにくい仮定法過去は現在の事実の逆や願望を表すことらしいですが、ジュリーはビリーへの気持ちを隠すためにもってまわった表現をしているようです。つまり知り合ったばかりの相手に惹かれている気持ちの揺れを表現した歌詞ではないでしょうか）

舞台設定はそれぞれ違いますが、どれも微妙な I Love You ソングでハマースタインは Make Believe が気に入り、それを二番煎じ、三番煎じした歌のようにも感じられます。

2012/05/20 作成

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