ジャズ歌手誕生以前のジャズ歌手たち
1920年代半ばに発明された電気式マイクロフォン、ジャズのスタイルの発展とともに、1930年代にビング･クロスビー、ルイ･アームストロング、ボスウェル・シスターズなどの第一世代のジャズ歌手が生まれることになる。
それ以前にはベッシー･スミス、エセル･ウォーターズなど、後年のジャズ歌手に影響を与える大歌手もいた。しかし、ここでは次世代に影響は与えなかったものの、1910s
～ 1930sに人気のあった、ジャズ感覚に優れたの歌手二人を紹介する。
クリフ・エドワーズ～ウクレレ・アイク （Cliff Edwards "Ukulele Ike" ）
●１８９５～１９７１
●ヴォードヴィリアン、映画俳優
彼の名は知らなくても、ディズニー映画「ピノキオ」でこおろぎのジミー・クリケットの声を担当し「星に願いを( When You Wish Upon A Star )」を歌った人、またはＭＧＭ映画「ザッツ･エンターテインメント」の冒頭でウクレレを持って「雨に唄えば( Singin' In The Rain)」を歌った人といえば、思い当たる人も多いのではないか。
ティーンエイジャーの頃から芸能活動を始めたが酒場で歌っているときに、ウクレレを伴奏楽器として覚え、彼自身が"effin"と呼ぶ、歌唱スタイルを開発した。effinとは、楽器を模したような声でインプロヴァイズするスタイルであり、彼の３オクターブある高音はトランペットやカズーの音色のように聞こえる。
1917年シカゴで歌手としての仕事を得たときに、ウクレレ・アイクというステージ・ネームで歌い人気を博す。1919年にジーグフェルドのレヴューに出演しコロンビアで初録音するも発売されずレヴューも翌年終了し、その後転々とする。
1922年にジャズ･バンドと共演した、 Homesick, Virginia Blues などでは、 effin スタイルでインプロヴァイズし、最初のスキャット・シンギングと呼ばれる。これには異論もあるが少なくとも創始者の一人であることは間違いがない。
1923～1928年にPatheレコードに残した録音はジャズ的であり、特に初期の録音は現代のボビー･マクファーリンにも通じる作品を残している。
－ Old Fashioned Love (1923)
歌の合間にトランペットを思わせるスキャット･ソロ
－ Fascinatin' Rhythm (1924)
ガーシュイン兄弟のミュージカル Oh, Lady Be Good!の曲。ショー･ストッパーとなる人気を博し共演のアステア姉弟の人気を食った。
－ He's the Hottest Man In Town (1924)
当時の白人としては珍しいブルースへのアプローチ。
－ How She Loves Me Is A Nobody's Business (1925)
２コーラス目の、Nobody'sとBusinessの語間にとるシナトラばりの絶妙の間。
1928年からは映画界にも出演し、ＭＧＭミュージカルではコミック･レリーフの役割を演じるが徐々に栄光を失うようになる。
40年代にディズニー映画の「ピノキオ(1940)」「ダンボ(1941)」などに声で出演し一時は脚光を浴びるも、Ｂ級映画の出演が多くなり、50年代以降は忘れられたスターになる。人気衰退の原因は彼自身の放蕩（酒、女、博打、麻薬、破産、離婚、等）のせいであるが、それでも71年まで長生きした。
マリオン・ハリス(Marion Harris)
●１８９６（または１９０５）～１９４４
●ヴォードヴィル、ブロードウェイー、ラジオ等で活躍した歌手。
彼女の生い立ちはほとんど知られていないが、伝説では1910年代にヴォードヴィルで歌っていたときに、ヴァーノン・カッスルに見出されたという。後のジャズ歌手に与えた影響はほとんどないと言っていいが、彼女はジャズ・シンギングに関して、３つのことを最初にやっている。
①女性としてはじめてジャズを歌った歌手。
When I Hear That Jazz Band Play(1917)
今の感覚でいうとジャズではないが、当時としてはジャズと解釈された歌を始めて歌った女性。少なくとも曲名に「ジャズ」という言葉が始めて使われた歌を歌った歌手ではある。彼女はジャズ･エイジである1920年代に金髪のショート・ボブでフラッパーの典型のように考えられ、 Jazz Baby, Take Me To The Land Of Jazzなど、JAZZがつくレパートリーが多い。
②白人女性としてブルースを歌ったパイオニア。
St. Louis Blues(1920)
当時契約していたVictorがブルースを歌わせなかったので、Columbiaレコードと契約して録音した。舞台の上では以前からＷ・Ｃハンディの歌を歌っており、彼女は黒人と思っている人もいたという。JAZZ同様彼女のレパートリーには、Beale Street Blues, The Memphis Blues, Blue などのように、BLUESまたはBLUEがタイトルに入る歌も多い。
(最初にブルースを歌った白人歌手はソフィー・タッカー Sophie Tucker で彼女は 1917 年に同曲を録音してして、ミリオンヒットとなった。マリオン・ハリスが最初にブルースを歌った白人女性歌手とは言えないが、しかし、Ｗ．Ｃ．ハンディからは、 White Blues Singer と呼ばれ、白人ブルース歌手のパイオニアであることは確かだろう）
③ヴォーカリーズを最初に歌った歌手。
Singin' The Blues(1934)
30年代はロンドンに移住し、ラジオ番組などに出ていたが、ODJB作曲のシンギン・ザ・ブルースに歌詞を付けイギリスで録音している。このときフランキー・トランバウアー及びビックス･バイダーベックのアドリブにも歌詞をつけて歌った。後年キング･プレジャーがジェイムス･ムーディーのアドリブ・パートを「ムーディー・ムード・フォー・ラブ」として1949頃に録音するが、彼女がヴォーカリーズを最初に歌った歌手と考えられている。
(ジャズ創世記のヴォーカリーズ作品 参照）
1930年代半ばに、結婚を機にショービズ界から引退するがロンドン大空襲で家を失い、アメリカに帰国するも、タバコの火が原因の火事で短い生涯を終えることになる。
（ホームページ）
（上位メニュー）